わたしという存在

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昼食も終わった後の昼休みは少なからず眠気に襲われて本を読むことにも集中しきれないことがネックだ けれどうとうとと微睡んでいるこの時間はぬるま湯に浸るような些細な幸せに感じるのはわたしだけだろうか? しかしまだ授業が残っているというのに眠ってしまうわけにもいかず、ふわふわと纏まらない思考を席を立って外の空気を吸い込むことで霧散させようと試みる ふと視線を下げていくと建物の陰に隠れていて見えづらくはあったが、あの人がいた おそらく誰かと話をしているのだろう 当然ながら声は聞こえないのだが、きっと相手はどこかのクラスの女子生徒で間違いないだろう こういった現場を目撃してしまうのは何も初めてではない この席になってしまえば自然と目撃してしまうことが増える ・・・だからといって不用意にこの事を誰かに話すわけではないのだが、なんとなく見てしまう 野次馬根性と言うものなのだろうか?おかしな話だ あの人も気の毒に わたしと同じ理由で恋をした多くの女子生徒から来る日も来る日も同じような言葉の羅列を押し付けられるだなんて けれど未だにあの人の心を射止めた人は居ないようで、あの人が誰かと交際しているという噂は耳にしない 誠実なあの人のことだから、無責任に交際を承諾することはないのだろう 本当に、なんて慕わしい人なのだろうか クラスが同じというだけで接点など何もないと言うのに、わたしは今こんなにも満ち足りている 先ほどまでの微睡みなどとうの昔に霧散していて、わたしは少しだけ熱気を帯びてきたそよ風を肺一杯に吸い込んで、それからまた何事もなく自分の席へと戻った 刻一刻と迫り来る夏休みに周りが静かに浮かれ始める今日この頃 きっと誰とどこへ出かけようかと話し合っているのだろう わたしは予定を立てたところで一緒に行く相手もおらず、たまにふらりと現れた志穂に引っ張りだされてようやく外の暑さを知るような生活を送るのだろう 中学の頃より格段に課題は増えたものの毎日少しずつ片付けていけばけして終わらない量ではない ・・・あの人はどんな夏を過ごすのだろう 楽しい思い出が増えるといいな、・・・なんて 余計なお世話を考えながらも、口元には誰にも分からないくらい微かに、けれどとても自然に弧を描いていた .
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