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夜中、左腕にうずきがあって、目が覚めた。
腕をさすりながら体を起こすと、目の前には黒い空間が広がっている。
おぼろげな記憶の中に少女がひとり、ぽつんと立っている。
Chapter1 曇
八木山動物公園駅の改札を通り抜けた。
ピッという乾いた電子音とともにゲートが開く。周りを見渡すと真新しい駅舎に目がひかれる。
12月仙台地下鉄東西線の開通。今まで大変だった高校までの道のりが少しだけ楽になる。楽にはなったけれど、私の心はいつまでも晴れない。
電車に揺られて仙台駅に着く。ここで南北線に乗り換えて、八乙女の駅まで行く。さっきまでよりは少し混みかたが楽になる。座れないけど。
そっと視線を下ろし、着ている制服を見る。黒のブレザーに車ひだのグレーのスカート。なんの変哲もないありふれた制服だ。胸につけているスカイブルーのリボンが目を引く。ここだけが目立つ。そして、どこの学校だか一目瞭然だ。
――嫌だなぁ。
制服は嫌いだ。それだけで判断する人が多いから。
ほうっとため息をつく。
――本当はセーラー服の学校が良かった。
-◆-
うだつの上がらない非常勤教員をしていた父さんが高専の助教に受かって仙台に来ることになったのが昨年の今頃だった。私は前橋の高校を受験するつもりでいたから、突然の仙台行きには正直とまどった。友達と離れるのも嫌だった。
何度も「おばあちゃんち から通うから行きたくない」と言ったけれど、ダメだった。
おばあちゃんもおばさんも行ったセーラーの学校に行くつもりでいた。憧れの制服だったのに。
母さんも早々に次の仕事場を見つけ、父さんよりも早く仙台に行ってしまった。母さんのいない家で私は短い一人暮らしを強いられ、イライラが募る中での受験になった。
とにかくセーラーだけはゆずれない。
そう思って、仙台の学校を調べた。
公立は私の頭じゃ厳しいからせめて…と思い、少ない情報の中で緑のスカーフのセーラーの学校を見つけた。
それから、修学旅行で京都に行って以来の長距離新幹線でたどり着いた東北の街は雪がどっちゃりと降っていた。
――この街で暮らせるの? 私?
迎えに来てくれた母さんが言った「今日は大分少ないのよ」の一言が決定打だった。
――帰りたい。嫌だ。
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