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「おぉー、ここがお前の家か。大きいな」 「言っておくが、金持ちとかではないぞ。代々引き継いでいる家なんだ」 「お前のみすぼらしい格好を見ていれば、それくらいは分かる」 「君はいつも一言多いな」 「気になっていたのだが、私は君ではない。青桜(あおさくら)きつねという名前があるのだ」 「青桜きつね」 「いい名前だろう」 「ああ」  名前をほめられて嬉しいのか、きつねの歩みが少し早くなる。  それにしても、祭りのあの日、大吾が「キツネにつままれた」と称したのは、ただの比喩どこころか、ある意味で正解だったということだ。 「これからは、きつねと呼んでくれ。それでお前の名は?」 「僕は古町大吾だ」 「古町か……」  大吾は歩きながら少女との会話を済ませ、さっさと帰ってもらおうと考えていた。しかし、結局のところ、家の前まで連れて来てしまっていた。焦らずにはいられない。 「きつね、君の両親も心配しているだろう。そろそろ帰ったほうがいい」 「ふむ、その様子を見たところ、部屋に上がるのは難儀そうだな」 「部屋には絶対に上がらせないぞ」 「何故だ?」 「変な誤解があったらたまったもんじゃない」 「仕方がない。今日はここまでにしておくか」  ケンケンパをしながら、来た道を戻るきつねの背中を大吾の視線が追う。一人で帰すのは心配だったが、神社の近くに住んでいるとのことで、来た道を戻ることになる上、遠くもないので「送りは結構」と拒否される。  一体何のためについてきたのかよく分からなかったが、大吾はようやくの解放に胸を撫で下ろした。しかし、その安堵は僅か二十七秒後に打ち砕かれることとなる。  屋敷の門を開け、庭を横切り、玄関の戸を引いてギシギシ音を鳴らす階段を上る。ここまでにかかった時間は二十五秒。  階段直ぐの戸を引いて、自分の部屋に入ろうとした瞬間、大吾は驚きのあまり、後ろに転んで廊下に手をついてしまった。  ありえない、一体何が起こっているのか――。  それこそ「狐につままれた」ような、信じられない光景を前に、大吾は目を丸くし「ふひッ」と奇妙な声を漏らすしかない。
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