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「何でここにいる? さっき別れたはずじゃ……」  ちゃぶ台の向こう側には、何故か先ほど別れたはずの少女きつねが座っていた。きつねは澄ました顔で大吾の部屋を見渡す。  部屋は整頓されているというよりは、物が少ないと言ったほうが正確で。シンプルなラックつきの机と、デスクトップパソコン、漫画ばかりの本棚が三つ、壊れかけの扇風機、それから部屋の中央に置かれたちゃぶ台しかない。開いたカーテンは風に揺れ、蜜柑色の夕陽が部屋の畳を鮮やかに染め上げる。 「こうでもしないと、話を聞いてくれないだろう」 「外で話せばよかったじゃないか」 「外では話せないことなのだ」 「それよりも、どうやって僕より先にこの部屋に入ったんだ?」 「その点については順を追って説明する」  まったくもって意味が分からない、奇妙奇天烈な出来事である。窓が開いているので、窓から侵入したのは間違いないが、いくら純和風の古い日本家屋とはいえ、大吾の部屋は二階。梯子がかかっている訳でもなく、近くに踏み台になるような塀がある訳でもない。  そもそも、正面口から入るよりも先に、二階へ上り切ることなど不可能だ。できたとしても、人間業ではない。大吾は腹をくくり、きつねの話を聞くことにした。そうしなければ、話が進まないからだ。  大吾はきつねの向かい側に胡坐をかいたが、いつもは来客にすすめる座布団の上なので、すわりが悪い。正面に座るきつねは、見れば見るほど幼く、何故、このような状況になってしまったのか。考えるほどよく分からなくなってしまう。 「実は祭りのあの日、私が大吾に接触したのには理由がある」 「理由?」 「そう、大吾が人間にしては強い力を発していたのだ」
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