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 大吾が少女と再会したのは、祭りの日から数日後。  高校の補習を終えて家に帰る途中であった。  大吾の家は森や田に囲まれた小さな街の端にあり、通っている高校からは徒歩三十分ほどである。その日も大吾は平穏無事、目立たずに過ごし、一人で校門をくぐって人々や自動車が行きかう通りを歩いていた。  いつ覗いても客がいない古本屋、タオルを頭に巻いた親父が、小さく折り畳んだ新聞を睨みながら退屈そうに店番をする八百屋、十分百円と書かれた看板が立つコイン駐車場。  高校への道のりを毎日往復する大吾にとっては、見慣れた風景が流れる。  しばらく歩いて線路を横切ると、夕暮れ前の暗い空の下に、住宅街の屋根が一面に広がった。住宅街に入ってすれ違うのは、買い物帰りの主婦くらいで。先ほどまでの賑やかな通りとは違い、退屈を感じずにはいられない。  住宅街を抜けると、今度は山の緑や桜の薄紅色が視界に広がる。  山道特有のゆるやかなカーブを何度か曲がると、水神を祀っているという神社の参道が見えるのだが、本殿ははるか先、山の中腹に立っており、参道からは鳥居すら見えない。  森の木々を縫って差し込む光は柔らかく、大吾は何気なく石段の先に視線を移した。  そこで、あの奇妙な少女を見かけたのだ。  少女は下から数えて二十段目ほどに座っていて、祭りの日ではないのに、出会った日と同じように赤い着物を着け、狐の面をかぶっていた。  少女はひざの上に両肘を乗せ、退屈そうに大吾を見下ろす。街で見かければ不自然な恰好であるが、神社の前だからか、気にならない。 「こん」  参道を囲う森の木々が風に揺れ、少女の髪がふわりと揺れる。  大吾は少女の言葉を無視して神社の前を通り過ぎた。祭りの日の出来事を思い返せば、嫌な予感しかしなかったからだ。しかし、背中を追う「こん」という言葉は、距離をとるごとに大きくなっていく。  こん、こん、こん、こん、こん。  仕方ないので、大吾は来た道を戻り、石段を見上げた。 「こんなところで何をしている?」  少女が求めているであろう言葉を大吾が投げかけると、少女は狐の面を外し、スキップの足取りで石段を下りた。
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