0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえねえ、女子って何歳まで女子なの?」
あたしはソファで寝そべりながら、キッチンで夕飯の支度をしているママに聞いてみた。
「何よ急に」
「だってさあ。この人たち、どう見ても大人なのに、女子なんて言ってるんだもん」
テレビでは地元のスイーツバイキングを特集していて、リポーターがママくらいの年の女の人たちにインタビューしていた。小っちゃいテーブルいっぱいにケーキがてんこもりのお皿を乗せて、女の人たちは「女子会中でーす」と笑っていた。
「いくつになっても女は『女の子』でいたいのよ。それより! もうお菓子食べるのやめなさいよ、ごはんもうすぐなんだからね」
「へいへーい」
あたしは食べかけのポテチの袋を折りたたんで、ソファから降りた。
女の子でいたいって言うその口で、小六の女の子に向かって説教するママは、あたしの目から見てとっくに賞味期限切れに見える。
私はあと何年で、女子じゃなくなるんだろう。大人と子供のさかい目って、どこなんだろう。ある日突然、今は苦いだけのビールが美味しく感じたり、煙たいだけのタバコが吸いたくなったりするのかな。
あたしは自分の部屋に戻って、ランドセルの奥に小さく折りたたまれた紙を取り出した。提出期限は明日なのに、さっぱり埋まっていない作文用紙。卒業文集に載せるという、『将来の夢』があたしを悩ませる。
今とは違う何かになるあたし。全然、想像つかない。あたしはまだまだ鬼ごっこが好きだし、男子はうるさくて乱暴で大っ嫌いなのに。
あーもう。とりあえず何か書かなきゃ。『お嫁さん』とかでいいよね。何かお気楽な気がするし、理由は? なんて面倒くさいこと聞かれなさそうだし。
結局、苦労して書いた作文が日の目を見ることはなかった。
次の日あたしは、今までのあたしじゃなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!