序ショーツ

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「私を盗んだ挙句、咀嚼した犯人が分かりました」  亭場(テイバ)ツク男は、表情を変えずにそう言った。とはいえ彼の場合、顔に感情が出る事の方が少ない。  容疑者達が雁首揃える、栗落花夏奈(ツユリカナ)宅のリビング。この小さな空間に、緊張感が張り詰め始めた。 「そして今、犯人は別のパンツを頬張っています」  亭場ツク男の声に、怒りがこもる。  彼は憤怒していた。  ところで、亭場ツク男? 誰だそれは? そんな視聴者諸君も多かろう。ここらで簡単に彼を紹介しよう。  亭場ツク男は根っからの正義漢である。彼は己のフリルが、生娘の太ももに被さる瞬間が好きだ。己の両肩が、乙女の骨盤に掛かる瞬間が好きだ。少女が大好きだ。故に、パンツ盗難を彼は決して許さない。  また、亭場ツク男は極めて慎重な男である。普段から彼は自分の姿を晒さぬよう、布で全身を覆うなど、細心の注意を払っている。  そして、彼は寡黙な男だ。彼が己の声を発する事はない。彼は、助手の江戸川秋に話させる事で事件を解き明かす。故に、全ては江戸川秋による推理で、亭場ツク男は彼女の手によりパペット人形の如く扱われているだけ、という事になる。  つまるところ、彼はパンツである。それも女子高生の黒いTバック。男達の憧れである。これはそんな彼が罪深きパンツ泥棒に鉄槌を下す、勧善懲悪物語である。  と、私は心でナレーションを読んだ。
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