序ショーツ

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「否定するなら今ですよ。口の中にパンティーがあるんで喋れないでしょうが」  私は亭場ツク男を巧みに操り、彼が言ったかのよう犯人に見せる。声は低くダンディーに、手も目立たぬよう黒の手袋をしている。  おそらく犯人にとって今の状況は、この栗落花邸で容疑が他の者に向いている中、ソファーの陰から突如現れたパンツから犯人である事を言い当てられた、という奇々怪々なものに違いない。  このような超自然的空間をつくる事で、ミステリーの解答節はうんと面白くなる。しかも犯人の動揺を誘える上、何より目立つ。  何故目立つ必要があるのか。それは愚問だ。探偵やら、ヘンテコ刑事で溢れかえる昨今、探偵稼業で生き残るのは並大抵の事ではない。  難事件や怪事件にも限りがある。過飽和状態の探偵達により、極上の謎にありつくのは事件を解くより難しい。挙句、探偵を殺す探偵が現れ、そういった事件専門の探偵すら出てくる始末だ。  つまり今の世、目立つ事は探偵として生きる上で最低限のスキルと言えよう。こうして、亭場ツク男を使い謎を解く事にはちゃんと意味がある。そうして名を売れば、寝ていようとも勝手に謎が依頼として転がってくる仕組みだ。 「やはり、黙秘を突き通す訳ですね。では、あなたが犯人という根拠を述べましょうか」  犯人の返事はない。他の容疑者達も黙っている。足音も聞こえないから、きっと全員立ち止まってはいる、だろう。  このスタイル、周りの様子を窺えないのがたまに傷だ。  私は少しやりにくさを感じながらも続ける。 「犯人は白昼堂々、栗落花夏奈のパンツを盗んだ。しかも、家の中にあるそれを。さて、問題はその方法です。その日栗落花家には、栗落花夏奈の母君がずっと居たと言います。彼女曰く、何者かが入った様子はなかったとの事でした。つまり、犯人はその目を潜った――」  私は亭場ツク男を操りながら、自分の口上に恍惚とする。思えばこの事件、始まりは唐突だった。お節介巨乳委員長には感謝せねばならない。  私は推論を今一度まとめる為、事件の発端を思い返した。
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