全自動パンツ盗難

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 第一章―全自動パンツ― 「パンツが家から出て行った? 一人でに?」  ノハア、と欠伸しながら私は聞き返した。 「ええ、そうなの……あの、聞く気ある?」 「いや、ないな」  素っ気なく答え、私は手元の小説に目線を落とす。放課後、こうやって誰もいなくなった教室で「断罪探偵☆邪気崎聖也」の最新刊を読む。これ以上の至福はない。  梅雨の晴れ間、室内へ吹き込む風は心地良く、うっかり寝てしまいそうな塩梅である。 「ちゃんと聞きなさいよ。依頼なら何でもござれ、なんでしょ?」  それをだ。コイツが邪魔しやがった。  声の方に目をやると、殺意の眼光がこちらを睨んでいた。  コイツが今回の依頼主、冷水冬美である。  一見、真面目そうな容姿だが、所作に淑やかさは皆無である。黒髪ロングに黒縁眼鏡か。ふむ、悪くない。寧ろ、舐め回したいまである。  気に食わないのと言えば、彼女の態度と胸にぶら下がった脂肪の塊二房だ。 「で? 依頼内容は?」  私は苛立ちを隠さず問う。 「だからその、探して欲しいのよ」 「何をだ」 「言ってるでしょ、パンツよ」  冷水は私にすっと近づき、声を潜めてそう言った。目は泳ぎ、恥ずかしそうなのが目に見える。 「んなもの、店で買って来ればいいだろう。教えてやろうか? 行きつけの店」  わざと、意地悪く言ってみせる。あわよくば、激昂して帰る事を願う。 「あーもう! 盗られた、パンツを探して欲しいの。それと、その犯人もね」 「全く。パンツ、パンツと下品な女だ」  私は肩をすくめる。 「あなたが言わせたのでしょ!」  ぐぬぬ、と冷水は歯を噛み締める。そして、彼女の顔の横で拳が震え始める。  しかしこの名探偵江戸川秋、暴力などに屈したりせぬ。 「だとしても? 言ったのはお前――」  それ以上は、彼女の拳が言わせなかった。 「ごふっ」  私は渋々依頼を承諾、事件の詳細を聞く事とした。
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