15人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「何処に行く、冷水冬美。下着売り場か?」
「だから行かないっての。また殴られたいの?」
冷水は酷く冷徹に問った。
協力が決まるなり、私を高校から連れ出した冷水。大した説明もなく、無理矢理引き摺られ今に至る。私はすっかり反抗心もなくし、襟首を引かれるがままになっていた。
「私が悪かった。もう、殴るのは止めてくれ……あと、息が苦しい。離して下さい」
この状態では、いつ私の呼吸が止まってもおかしくない。冷水は怪訝そうな様子だったが、「ぬわあ、死ぬう!」と私が何度も叫ぶとやっと解放した。
「で、どこに行く? 貴様の家か」
「どうして私の家に。これから行くのは被害者の家、事件現場よ」
「被害者は貴様ではないのか、冷水冬美?」
何から何まで分からない。依頼をしている側にも関わらず、どうして隠し事をするのだろう。
「おい、冷水冬美。どういう事なのだ?」
私が問うも、冷水は意に介さぬ様子でスタスタと道を進んでいく。この辺りは住宅街になっている。誰かの家を目指してはいるのだろう。
少し間を置き、冷水が口を開いた。
「なら当ててみなさいよ。探偵なのでしょう?」
「そういえば、貴様どこでそれを?」
私はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いや、校内掲示板にあんなデカデカと貼り出されてたら、見たくなくても目に入る。しかも無許可で。おかげで委員の仕事が増えたわ」
冷水はそこでやっと私に振り向き、鋭く睨んだ。
彼女の言ったよう、私は校内で独自に探偵として活動している。その為には依頼、つまりは広告が必要だ。そこで利用したのが校内掲示板だった。
そういえば、二日前から張り紙を見ないと思っていた。冷水達、委員が剥がしていたのか。
「さ、出来ないの推理? なら、ここで帰ってもらっても良いのだけど」
澄ました声で挑発してくる。なかなか彼女も根性が曲がっているらしい。
「良いだろう。名探偵江戸川秋、いざ参らん!」
もっとも、私も少々の事で引くようなタマではない。望むところである。
最初のコメントを投稿しよう!