全自動パンツ盗難

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 順を追おう。冷水は私の所へ一人で依頼に来た。被害者は別にいるのにだ。  これより、被害者の人間は依頼に来られない、若しくは来る必要がなかったのだろう。  また冷水は「パンツが一人でになくなった」という、興味をそそる情報以上は与えなかった。何故だ? 被害者が他にいるのなら、単に詳細は知らない可能性もある。しかし、彼女の態度を見るにその線は薄い。そんな詳細も知らないのに、私に依頼を出しはしないだろう。  つまり、彼女は必要以上の情報の開示が出来なかった。いや、憚られたと言うべきか。  なるほどな、私はクツクツと笑う。 「全く、お節介な奴だな。心配しなくとも私は秘密を守るし、依頼も必ず達成してやる」  そう私が言うなり、冷水は血相を変えて振り返る。 「へえ。実力だけは本物のようね」 「そりゃどうも。だが腑に落ちない。何故お前は、被害者が望まないのに単独で動いた? 被害者は大事にしたくないだろう?」  冷水冬美の依頼は、彼女の独断だ。故に、彼女は一人で、尚且つ私に対し黙秘を貫いた。事件の詳細を広めないように。被害者に迷惑が掛からないように。  冷水は後めたいのか、少し俯く。 「私は許せないの。曲がった事が、世の中の悪が。それによって、悲しむ人がいるのが。確かにあなたの言ったよう、被害者は『関わらないで』って言ったわ。でも、被害者がどうして我慢しなきゃいけないの? それも、泣き寝入りだなんて」  ああ、彼女は正義の人なのだ。私は思った。他人の為に、よくもここまで思い詰められるものだ。それも、彼女にとっては当たり前の事なのだろうが。
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