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俺はTシャツの上に羽織っていたヤンキース仕様の開襟シャツを脱いで渡した。
去年、いや、一昨年だっけ? ヤンキースが優勝した時に日本だけで数量限定販売されたプレミアもんなんだけど、そんなこと説明してる時間ない。
「はい、どうぞ。……てかさ、今って八月でしょ? 学校あるの?」
「部活」
ヤンキースシャツを制服の上から羽織りながらそっけなく言う白崎さん。俺は自転車の後ろに跨り掴むものを探して、とりあえずサドルの後ろを掴んだ。
「あ、そっかぁ~……だよねぇ。高校生だもんねぇ~。高校時代の白崎さんに生で会えるなんて本当に思ってもみなかったなぁ~」
「生って、気持ち悪い言い方しないでください」
「ふははは……ごめん、ごめん。つい……感激してるんだよ。会えて凄く嬉しい」
「変なの、会いに来たんでしょ。よっと」
「うおっ」
俺が後ろに乗ってるのに、悠々と自転車を漕ぎ出す白崎さん。結構力もある。当たり前か。毎日学校まで自転車で通学してるんだもんね。
自転車は境内を出て、来た道を戻り、畑の前でスピードを落とした。
「ばあちゃん! 行ってきます!」
おばあちゃんがパッと顔を上げる。白崎さんはニコニコ笑顔でおばあちゃんに手を振った。
さっきは俺が呼んでも全然気づかなかったのに……。白崎さんの声はよく聴こえるんだね、おばあちゃん。
おばあちゃんもニコニコと手を振る。
「気ぃつけてぇな」
「はーい」
自転車は一旦落としたスピードを上げて、緩やかな坂を下っていく。駅の方へ向かってるみたいだった。俺がタクシーを拾った商店街だ。ゴチャゴチャしていて、活気のある街並み。人通りも多い。
白崎さんは三階建ての派手な赤色の建物へ近づくと、駐輪場で自転車を停めた。
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