第一話 十七歳の君

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「うーん。ここらであってると思うけどなぁ」  運転手のおじさんは坂を上った団地をグルグルと三周してぼやいた。 「じゃ、降りて誰かに聞いてみるよ」 「その方が早いかもしれないねぇ」 「うんうん。ありがとう!」  俺は背中のリュックから財布を取り出すと一万円札を出して「ハタ」と気づいた。 「おじさん、この一万円札……使える?」 「ん?」 「ほら、あの、福沢諭吉さん……」 「もちろん」  ホッ良かった。「聖徳太子じゃないじゃないか!」とか言われたらどうしようかと思った。  財布の中の札を数える。  いちにーさん……あ、結構入ってんじゃん。あ、そうか、給料日の次の日だったからお金下ろしたばっかだったんだ。よし! とりあえずこれで食糧難は免れたぞ!   お金を払い、タクシーを降りる。  ミーンミーンジジジジジ……セミの大合唱だ。セミの鳴き声以外なんの音も聞こえない。  ギラギラと照りつける日差し。ゆらゆら揺れるアスファルト。空へ伸びた電柱、普通の住宅と小さな空き地、雑草だらけの畑。  どこにでもある景色を見渡した。  誰も居ない。まぁこんなクソ暑いなか、歩いている人もいないか……。ん?   よく見たら、畑のなかで何か動いている。俺は目を凝らしながら近寄ってみた。  あ、やっぱり人だ。大きな麦わら帽子を被ってるし、背中には亀の甲羅みたいにワラ背負ってるし、しかも小さく屈んでるから分かんなかった。  麦わら帽子の第一町人は草むしりをしているみたいだった。俺は畑にギリギリまで近づいて「あのぉ」と声を掛けた。しかし気づいた様子が無い。俺はもう一度声を掛けるべく、屈んで片手に口を当て、もうちょっと大きめの声を出してみた。 「あのー。すみません」 「…………」  草むしりをしている軍手は一向に止まらない。まったくの無反応。どうやら服装からしておばあちゃんみたいだ。そりゃ聞こえないかも。セミはうるさいし。仕方ない。  俺は畑の中へ入っていった。  このクソ暑いのに……熱中症で倒れちゃうよ? と思いつつ、腰を屈めているおばあちゃんの直ぐ後ろまで近づく。 「おばあちゃん! おばあちゃん!」  大きな声で背中に呼びかけると、麦わら帽子を被ったおばあちゃんが振り返った。  予想よりもっとおばあちゃんだった。 「ああ! ビックリした。あんた誰や?」
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