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小さな物音にチラッと白崎さんを見た。白崎さんは牛乳パックを手に取ってその口を開け、プラスチックのコップに注ぎだした。両手を合わせるとそのままその両手でコップを取り、口に運ぶ。
初めてだった。
機嫌のいい時も、悪い時も、どんな時だって、現状を知ってショックを受けた直後の朝食は絶対に食べなかった白崎さん。俺がここに来て初めて牛乳を飲んだ。ビックリしすぎて俺は完全に固まってしまった。一口飲んで牛乳をトレーへ戻す。そのまま、トレーの前に両手を置いて朝食を見つめる。
「…………」
静かな空間。俺は生唾をゴクンと飲んだ。
た、食べてくれるのかな? もしかして、もしかして……一口だけでも! ハンバーガーは白崎さんの好物なんだよね?
俺は心の中で両手を合わせて祈った。
点滴だけじゃ体力が落ちる一方だもん。ちゃんと食べて欲しい。お願い! 一口だけでも食べて!
そう心の中で強く願った瞬間、ふっと白崎さんが視線を上げた。俺は自分が鬼の形相になってないかと、表情を取り繕う。
やっぱり無理なんだろうか……牛乳を飲んでくれただけでも嬉しいことなんだけど……。 それにだ。よくよく考えたら、白崎さんは俺が知る限り固形物をお腹に入れてないよね? いきなりハンバーガーなんて食べたら胃がビックリしちゃうんじゃないのかな? 朝食の改善を提案した方がいいかもしれない。いくら白崎さんがハンバーガーが好きでも……。
「あ……その、無理はしなくていいから……えっと、牛乳だけでも……」
白崎さんは俺の声に耳を傾けて、話を聞き終わると、ほんとにゆっくりとその視線を落としていく。
「…………」
瞬きを一つして、白崎さんの指がピクリと動いた。微かな息遣いが聞こえてきそう。左手がゆっくり伸びて、ハンバーガーに触れ、その手に……取った!
やっぱり食べたくはない……というか、食欲はない様子。なのに、スローモーションみたいに、両手に持ったハンバーガーへ顔を近づけていく。
白崎さんはためらいがちに口を開きパンの部分を齧った。
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