第一話 十七歳の君

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 御神木らしき大きな木の影でグッタリと立ち止まり、手の甲で額の汗をグイと拭う。今来た道を振り返った。と同時に聴こえる声。 「いってきまーす」 「和ちゃん! 帽子は? 外暑いわよ!」 「いいよ! いらない」  その声に右を向く。境内の横、まるで敷地内に建ってるみたいに家があった。ブロック塀で仕切られているから違うんだよな。境内に隣接した、ただの民家なのかな? もう一度聞こえる「いってきまーす」の声。ガラガラと玄関が閉まる音。ガシャンという金属音と共に、自転車を押しながら男の子が出てきた。  白いシャツと学生ズボン……坊主頭じゃなくて、サラサラのショートヘア。  自転車を押しながら器用に携帯を弄っているから顔が見えない。わずかな緊張を感じつつ、その様子を見守っていると、男の子は道路に自転車を下ろし、携帯をズボンのポケットへ突っ込みながら顔を上げた。 「あ……」  間違いない。ふっくらとした頬は違うけど、ずっと幼い顔だけど、目も腫れぼったいけど……黒目がちで茶色く透き通った優しげな瞳。彼だ!   和ちゃんと呼ばれた高校生は肩に黒いバッグを掛けて今まさに自転車を漕ぎ出そうとしていた。 「あ、あ、あの! 白崎さん! シロサキ……カズトさんっ!」 「はい?」  いきなり俺に名前を呼ばれて反射的に出た声は、素っ頓狂な感じで高くて可愛かった。彼はキョロキョロと頭を動かして、木の下に立っている俺に気づいた。そして、自転車に乗ると、ひと漕ぎして俺の前まで来てくれた。 「なにか?」 「あ……ははは」  本当に居た。元気でピンピンしてる。普通に自転車に乗って……。健康的に焼けた肌も、キョトンとした顔も、柔らかそうな頬も……。十代の男の子だ。  俺は感動して泣けてきた。  あの白崎さんがちゃんと生きてる。いや、イキイキとしてる。
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