第一話 十七歳の君

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「あのぉ……」  白崎さんはいかにも「疑がってます」という視線で首を傾げ俺を見ていた。しかめた眉毛も完全に下がってる。俺は感動の鼻水をズズッとすすって笑顔を作った。 「はは……ご、ごめん……感動しちゃって……眉毛はやっぱり自然派なんだね」  俺の言葉に一層怪訝な顔をする白崎さん。思いっ切り「引いてます」という感じに、地面をつま先で蹴って自転車を押し下げ距離を取る。 「俺、急いでるんで」  白崎さんはそう言いながらそそくさとハンドルを握り直し、ペダルに足をかけ前傾姿勢で漕ぎ出そうとした。 「あ! 待って! 待って!」  俺は慌ててジーンズの尻ポケットから財布を取ると、信用してもらうのに何が一番いいのかと考え自動車の免許証を取り出した。 「俺、十年後の未来から来ました。一ノ瀬 優って言います」 「はぁ?」  かなり苛立っているのか白崎さんは声を荒げ、べらんめぇ口調になった。  ああ……。昔はこんなに元気だったんだ。そう思うとそのべらんめぇ口調さえも愛おしく感じる。 「いや、ホント! マジマジ! 見てよ! これ!」  俺は免許証を白崎さんの目の前にかざした。白崎さんはちょっとビックリした様子で顎を引っ込め、チラッと俺を見ると目を凝らし免許証へ顔を近づける。老眼でもないだろうに、ご老人みたいに目を細めた。 「有効期限見て? 平成二十八年の十二月になってるでしょ? 俺、平成二十八年から来たの。ゴールド免許だから平成二十三年に更新したんだよ!」  首を伸ばしジーッと免許証を見て、またチラリと上目遣いで俺を見る白崎さん。前傾姿勢だった上半身を真っ直ぐにすると、白けた様な表情で言った。 「これからも安全運転で頑張ってください。じゃ」  また、漕ぎだそうとする白崎さん。俺は通せんぼするみたいに自転車の前に立って、両手を合わせて頭を下げた。 「ちょ、ちょっと! ちょっと待って! 話だけでも聞いて! 怪しくないから! 全然怪しくないから! 話だけ聞いてくれたらお礼もするから!」
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