第一話 十七歳の君

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 一瞬にして白崎さんの声が変わった。 「お礼?」 「うんうん! お礼払う! ちゃんと払うから!」  お礼という言葉に食いついたように見えた様子だったのに、また白崎さんの視線は冷たく変わってしまった。 「新手のキャッチですか? 高校生相手にまずくないっすか?」 「ううん! 違うの! あの、あの、ちょっと待って……」  俺はリュックを肩から外し、新聞の切り抜きのコピーを取り出して広げた。 「これ、見て? 日付も。コピーだからちょっと不鮮明だけど……」  新聞の切り抜きには【八月三日午前九時十分ごろ、東京都H市R町の都道交差点で、横断歩道を渡っていた○○大学二年の男性(20)がトラックにはねられた。男性は病院に搬送されたが、頭を強く打って意識不明の重体。警視庁H中央署は自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)容疑で、トラック運転手の男(64)を現行犯逮捕した。トラックが赤信号を無視したという目撃証言があり、詳しい状況を調べる。】という記事が載っていた。 「新聞の日付を見て欲しいんだ」 「日付?」  そう言ってめんどくさそうに切り抜きの上部に目を向けると、彼の目は大きく見開いた。 「新聞の日付は今から三年後の八月四日になってる。そして、この交通事故に遭った大学生って言うのが……君なんだ」  白崎さんは息を飲むように硬直して、だんだん「ムムゥ~」と険しい表情になっていった。 「そんな事いきなり言われてショックだと思うんだけど……」 「サイテー」 「え?」  白崎さんはプイと横を向き、自転車の前輪を持ち上げ向きを変えて走り出そうとした。  慌てて自転車の前に立ち塞がり、ガッ! と、ハンドルを握る。 「待って! 最後まで話を聞いて! 聞いてくれたら、うんと……五千円! 五千円あげるから!」 「いらないよっ! 何なんだよ! 突然現れて、不吉な事言いやがって! あんたのせいで、遅刻しそうだし! マジで交通事故に合っちゃうよっ!」 「本当なんだよ! き、君は、君は、三年後、本当に交通事故に遭うんだよ! 脳に酷い損傷を負って、それで……それで……」  悔しくて涙が出てきた。 「それで……二度と笑わなくなっちゃうんだ……生きてるのに、体は健康なのに……二度と……」
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