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ハンドルをギュッと握ったまま、顔を伏せた。涙がぼどぼど落ちる。
泣いてちゃダメだ。そんな時間無い。ちゃんと話さなきゃ。
白崎さんは俺の剣幕に驚いたのか、ピタッと黙ってしまった。今がチャンスだ。俺は鼻をすすり、必死で頭を下げた。
「……僕は、君が住んでる特別介護施設の職員をしてる……まだ、君と出会って四ヶ月で……。あ、ごめん。ちゃんと順番に話すね? だから、お願い。話を聞いて欲しいんだ」
白崎さんはジッと身じろぎもしないで黙っている。俺は言葉を続けた。
「ちゃんと、ちゃんと説明するから、場所……変えない? 色々見せたい物がある。白崎さんの安心できる場所で、どうかな? 近所に喫茶店とかない? 知り合いがやってる食べ物屋さんとか」
「……カラオケでいいよ。監視カメラついてるし。……それに、そんな話し……知り合いに聞かせられないでしょ」
確かにそうだ。やっぱり白崎さんだ。頭の回転も理解力もある。そして、思いやりのある優しい人。
俺は鼻水を手で拭きながら「うんうん」と頷いた。ホッとしてまた目頭が熱くなる。すると目の前にハンカチが現れた。白崎さんが無言でハンカチを差し出してくれてる。
一瞬、いつもの白崎さんとの空気を感じた。でもそうじゃない。ここは十年前だよね?
「……あ、ありがと……」
内心ビックリしたまま白崎さんを見つめると、白崎さんは首を傾げつつ「うん」と頷く。
「あ、じゃ、じゃあ、そのカラオケ屋さんに行こう」
白崎さんは自転車の後ろへフイッと顔を向けて言った。
「乗んなよ」
「え……いいの?」
「ちんたら歩くのも目引くじゃん。学校休むんだし。あんたのその上着貸してよ」
「あ、うんうん」
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