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土の匂いがする。
グレープフルーツサワーの香りなど、とうの昔に飛んでしまっただろうが…嗅いだことがない生々しい匂いがいやに鼻について私は目を覚ました。
身体が動かない…これは…縄で縛られている?
「きゃああっ、誰か助けて!」
縄で縛られ、拉致されているのだ。
その痛みが、これは痛みじゃないと告げている。
拉致した人間をよく見ると、獣の皮を腰に巻いただけの半裸の男が数人。
まるで狩猟民族のようだ。
顔立ちは角ばっているが、ヒゲを剃ったらわりと格好良さそうなのもいる。
てか、なんでこんなところに?
いや…このシチュエーション…原始時代かな?
なんとなく、そう思った。
「ウガッ、ウガッ!」
しかし、言語は唸りだけ。
むしろ、言葉さえ知らない生き物のようだ。
人の形はしているが…ただの野生生物だ!
つまり…コミュニケーションが取れない?
そういえば、楔型文字が使われていたのは何時代だっけ?
頭を巡らせる私の生存確率は一気に低下した。
「ガウウッ!」
男同士でケンカを始める。
てか、なにこの状況?
私…どうなるの?
狩猟民族に縄で縛られて連れて行かれるのなら…よそ者の私は夕食の材料といったところか?
冗談じゃないわ!
必死にもがくも、縄で縛られていたら抜けようがない。
私は忍者じゃないんだから。
「がうん♪」
そんな中、一人の原始人が私に頬擦りを始める。
こちらはこちらで気にいられているようだ。
しかし、その点ではまだ私はついている。
こいつを味方につければ、帰るまでの時間は稼げる。
私は根性を振り絞った。
数年後、結婚適齢期を逃したと思って諦めていた私を迎え入れてくれた彼と私は見事に結婚した。
「お帰り。」
いつ生命を失うともしれない危険な狩りから帰った彼を優しく労うのが、私の毎日の楽しみになっている。
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