第一章 花火

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 神灯彰人(しんとう あきと)がノーマルな女好きだってことは小学生の頃からわかっていた。  そして思春期になったらなったで何人も付き合っては短い月日で別れてしまっている。    その度に俺、矢吹鶫(やぶき つぐみ)は心が引き裂かれるような思いにいたたまれなくなることもあった。  そんなに女が好きか? と聞いた俺にあいつは屈託のない笑顔で「ああ」ってこたえた。彰人はにっこりと微笑むときに右側の頬に小さなエクボを見せる。それははじめで出会った幼稚園の頃から変わらない。  今思うとそれがきっかけだったのかもしれない。俺の胸がどこかざわめくようになったのは。  自分が同性愛者だと気付かされたきっかけでもあったのだろう。  彰人の笑顔を見せられるたび、むきだしの神経が刺激されるようになり、自分の心の中に鬱積したものに耐え切れなくなってきた。 そして、中学生の頃ついうっかり自分の性癖を彰人に打ち明けてしまった。  言ってからとても後悔してもうダメだと目の前が真っ暗になった。  それで彰人が嫌悪感を示すようなら俺たちの仲もそこで終わりだ。  けれど、意外にも嫌がるそぶりをみせるどころか彰人は俺を偏見の目で見ることはなかった。  思春期の真っ只中だというのに、そういうものに一番敏感な年頃だったというのに。  あれこれ思考を巡らせてから、世の中にはいろいろな愛があるもんなんだなとむしろ俺に気遣いをみせてくれた。    俺は正直自分が否定されなくてありがたいようなでもどこかで気を使われてるのかと思ったり、複雑な気持ちになった。  このまま嫌われて彼の前から消えられればある意味楽になったかもしれない。  けれど、もう二度と彰人と会えなくなるのは辛い。だからあの時曖昧でも否定されなかった事について今は心から彰人に感謝している。  要するにずっと友達でいられればいいんだ。と俺は心に折り合いをつけることにした。  あえてやつをそういう目で見ないように、他の人を好きになるように。  そこで俺は今年の夏、二番目に好きな涼宮桐香(すずみや きりか)を花火大会に誘った。  彼はOKしてくれて、俺はこれで彼と結ばれればこのもやもやした欲求不満から逃れられると思った。    それなのに……。
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