第一章 花火

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「あは、こんばんはっしゅ!」  笑顔で近づく彰人の背後から、センスの悪いピンクの浴衣を着た見慣れない女が現れた。  あげた茶髪の毛を少し気にしつつ笑っている。  なんだか垢抜けた女だ。彰人の黒髪のほうがよほど艶めいて美しい。  彰人はその女にほほ笑みかけてるし、こんな軽薄そうな女のどこがいいのか俺にはまったく理解できない。 「こんばんは」  桐香が彼らのさらに後ろから遠慮がちに手を振ってきた。  やっぱり女物の浴衣を着てる。白地の浴衣に大きな椿の花の模様がちりばめられていた。 「これで全員が揃ったな」 「なんで?」  俺は声が少しうわずっていた。彰人が一緒だなんて聞いてない。  疑問を投げかける俺に桐香が笑顔でこたえた。 「あれ? メールで伝えなかったっけ。みんなで行こうって」  桐香。誘ったの俺だけじゃなかったんだな。  しかもよりによっておまえ、なぜ彰人を誘う。 「あれ? 瑠璃は」  桐香は俺の心の声など全く気づくことなく、さらに誘ったと思われる白鳥瑠璃(しらとり るり)というコスプレ仲間の男の名前を言った。 「あいつなら今日これないかもだってよ」 「えぇ。そんなぁ」  俺がこれなかったとしても桐香はそんながっかりした声は出さないと思う。  なぜこんな組み合わせになるのか、いや、見た目的には俺らはどう見てもノーマルカップル同士のグループ交際のようだ。 「まぁ気にせず行こうぜ!」  彰人の一声で俺らは歩き出す。人ごみに押されたように俺たちは花火会場へ向かった。 「あ、ねぇ。どうしてこられないの~。残念だよ~! なんとかならない」  桐香は歩きながら携帯で誰かと通話していた。相手はたぶん瑠璃だろう。   「楽しみね~花火~」  頭の軽そうな女が彰人に寄り添いながら歩く。    俺たちはそのまま流れに流れて歩く、やっとのことで開けた道に出ると、ほっと一息ついた。  目の前には露店が広がっていて、それは広い石畳の道の左右に、奥までずっと続いている。  改めて俺たちは道の端に寄るとひとまとまりになった。 「ああん、由香わた飴食べたいぃ~!」  軽そうな女が彰人にしなだれかかっていく。どうやら集団行動はお気に召さないようだ。  俺だってごめんだ。おまえと彰人が仲良く歩いているところなんて見てて楽しいもんじゃない。
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