第一章 花火

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「そうだな。俺たちはわた飴買いに行くわ、じゃな、鶫」  彰人は彼女の言われるままに、わた飴の露店の方へ向かう。   「桐香、瑠璃はいいから俺たちも行こう」 「え、あ、う、うん」  さっきまで一緒に行動するように思えた俺たちはあっさりと二グループに分かれてしまった。  彰人と軽い女の後姿を振り切るように俺は桐香と二人で違う方向に歩き出す。  後ろ髪引かれるような思いを感じる自分に少しだけ苛立った。  彰人がどんな女と付き合おうが俺には関係ないことだ。何度も自分に言い聞かせてきたことじゃないか。    彰人とは一度高校が変わって以来、同じアクション俳優養成学校で再びともに勉強する生徒になった。  高校時代会わなかったかというとそれは違う。あいつはいつも俺の家にいりびたっていた。  マットの上での基礎練習から、現代物や時代劇物の殺人の訓練、ありとあらゆる格闘技の基礎やダンス、スタントマンとしての基礎などを一年間みっちり訓練したのちしかるべき事務所に散るのだ。  しかし、事務所に入れてその後俳優業やスタントマンとして活躍できるものは数少ない。    俺は俳優の道へ彰人は俺の事務所の専属のアクションスターとしてくしくも同じ事務所になってしまった。  でもそれは俺にとっては拷問の始まりでもある。  常にやつの交際暦も知りやすくなるからだ。  正直もう、彰人の女性関係など聞きたくない。  人づてならまだいいのかもしれないが、直接本人からダイレクトに聞かされるときはたまったもんじゃない。    そしてさらに俺の我慢しどころなことは……。   「あっ、鶫。あそこでヨーヨーすくいやってるよ」 「ああ」    うれしそうな顔で桐香はストレートのボブの髪につけたかんざしを揺らしながらヨーヨーすくいのところへ向かった。  俺も続いて、いかつい顔をした店の親父にお金を渡すと、桐香はちり紙をこよった頼りない釣り糸でヨーヨーすくいを始めた。    しばらくは祭りのはやしの音と行きかう人の喧騒が穏やかに続く。  しかし、俺ははやしの音色の盛り上がりになにか予感めいたものを感じていた。
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