第一章 花火

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「うっ、うっ、うっ……」  俺の背後でしんしんと誰かの泣く声が聞こえる。  俺の嫌な予感が的中のようだ。  桐香は釣ったヨーヨーを笑顔で俺に見せると、早速ゴムひもを指にかけてパンパンと音を立てながらはじく。 「どうしてだよぉ」  その泣き声は俺の背中に張り付くように聞こえていた。  もう振り向かないでもわかる。  そこには目に涙をいっぱいためた彰人が、俺の背中にしがみつくように泣いていた。   「鶫~~~俺、振られた……」 「彰人……」  桐香が驚くのも無理はない。先ほどまでキリリとしていた男と同じ人物とはにわかに信じがたいだろう。  もうかよっ。 「アクションスターの彰人が泣くなんて」  桐香がヨーヨーを弾きながら興味深げに目をクリクリと丸くさせ彰人を見る。 「気にするなよ、桐香、こいついつもふられるとこうだから」  俺は手をひらひらさせて、なんでもないことのように桐香に説明した。   「ん~でも、彰人可哀想」  いつものこと。俺は何回この光景を見たのだろうか。  今回は前よりもずっと高速でふられたようだ。もしかして最短記録かもしれない。 「鶫~ふられた~!」 「わかった、わかった」  こんなときの彰人は放っておくと、あとでどんどんいじける、さびしがり、甘える。そして俺の拷問タイムの始まりだ。その見つめる瞳や欲しがるしぐさがどれだけ俺を誘惑し、困惑させ、混乱させるかまるでわかってやしない。    仕方ないから俺たちは三人で行動することにした。  俺の背中にいつまでも泣きながらひっついてる彰人と、それを興味深そうに見つめている桐香の三人じゃ、何も発展することなどないだろうが。   「鶫、りんご飴食べない?」 「えっ、あ……ああ。おごるよ」 「うっ、ううっ、ぐすっ」 「ヨーヨーも買ってくれたのに」 「いいから気にするな」 「あんまりだよ……どうして由香ちゃん」 「ありがとう……」 「鶫~ふられた~!」  まともな会話も成立させるのがむずかしい。  全く、子供のように泣くやつだ。もうこの場面には慣れているけれど、桐香には不思議に見えるのだろう。 「わかった、わかった。彰人、仕方ねぇな、りんご飴でも食うか?」 「うん」
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