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…その同僚が、つい半月ほど前に亡くなった。
死因はやはり交通事故で、こちらも即死だったそうだ。
物凄く親しいという訳ではなかったけれど、毎日職場で顔を合わせていた人の突然の死に、私はただただ茫然となった。
それでも、悲しみや喪失感に近い感覚を乗り越えた頃、別の友人に誘われ、気晴らしに縁日へ行くことになった。
道路の両脇にたくさんの屋台が立ち並んでいる。何も買わなくてもそれを見ているだけで気持ちが楽しくなる。
食べ物、玩具、ちょっとしたゲーム…そんな屋台の中にアクセサリーを取り扱っているその店はあった。
年齢どころか国籍も不詳の男の人が、女性客と何やら話している。
亡くなった友人や同僚も、こういうお店で買い物をしたのかなと、また感傷が込み上げた時だった。
小さなリンクが足元に転がってきた。どうやら女性客が購入した品が、滑り落ちるなりして転がってきたらしい。
反射で拾い上げた品のデザインに、私は眼を疑った。
友人や同僚が持っていたのと同じ、妙に記憶に残るデザインのリング。
咄嗟に輪っかの内側に眼をやる。
同僚に見せてもらった物よりも、かなり濃い赤色だった。
「すみません」
声をかけられた勢いで、これを購入したらしき女性にリングを渡した。
早速リングを指に嵌めた女性が人混みに消えて行く。その姿を見送っていた私は、ふと気になって屋台の店主を窺った。
そこに、店主の姿はなかった。
ついさっきまで確かに商品の向こう側にいたのに、影も形も見当たらない。アクセサリーに興味があるフリをして、暫く友人を待たせてまで店の前にいたけれど、店主が戻って来ることはなかった。
死んだ二人が持っていた、同じデザインのリング。だけど内側の赤さが違っていたリング。それと同じデザインだけれど、さらに内側が濃い赤だったさっきのリング。
気になることが色々あるけれど、店主が戻らない以上、聞きようがない。それでも気になりすぎたので、翌日、もう一度縁日に行ってみたけれど、もうそこらアクセサリーの露店はなかった。
もしかしたら、あれは同じリングなんじゃないだろうか。持ち主を死に追いやりながら、転々と人の手を渡っている品なのではないか。
まるでホラー映画みたいな考えだけれど、何故かそう思えてならない。
シルバーリング…完
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