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授業中、授業間の空き、給食の時間、掃除の時間、余す事なく西川の周りには女子がいて男子を睨みつけていた。こういう時に限ってバカみたいな正義を翳して結束力を固めるから女は厄介だ。西川はそれをまるで意に介さず無視を決め込んでいる。おかげで、表面上の女子の好意を無下にする嫌な奴みたいな噂も立ちつつあった。
ま、まあ、バレてないのなら俺の出張る事じゃあない。先生からも少しこの件についての質問を受けたが、上手く誤魔化せただろう。
とにかく、俺が自首しない限りこの一件は解決しない流れになった。大事ではあれど、西川本人は特に気にも留めてなさそうだ。親が騒ぎ散らし毎日のように学校に電話を入れているらしいが、それはもう俺の干渉する領域ではない。
良かった、このままだんまりが続けばいずれは皆この事件の事を忘れてしまうだろう。少し罪悪感と……胸のモヤモヤは残りはするが、俺の危険は通り過ぎ去った。
「石戸くん」
通り……すぎ……。
「えっ、えっとなん、なんだよ!?」
おい嘘だろ。みんなまだ教室にいるのに、こいつ俺に話しかけやがった。
西川は周りの視線なんか気にせず俺のすぐ目の前まで来ると、ニヤリと笑った。
……そして、俺のズボンのポッケに手を入れ何かを入れた。そして、教室から出て行った。
何が書かれているか分からないが、それが脅しである事は分かった。俺は安全圏なんかにいない、いつだって突き落とせるぞという、そういう意味合いでの行動なのだろう。
「ね、ねぇ今の」
「怪しい……やっぱりあんた、なんか関係あるんでしょ石戸!」
「は、はぁ!?」
困った事に、馬鹿女どもが俺の周りに群がり立て続けに俺に攻撃的な言葉を吐く。
「ざっけんなよ! 何もしてねえ!」
「じゃあ今のは何!? 西川さんはあんたに何をしたわけ!」
「そっ、それは……」
ポッケの中にあるこの紙にどんな事が書かれているかは分からない。もし、事件の事についての脅迫文なんかが入っていたとしたら、それを見せれば有無を言わさず俺が犯人だとバレてしまう。
でも……。
「やめなよみんな。石戸くん、困ってるじゃん」
皆を納得させる言い分が浮かばず絶体絶命の俺に、一人の女子が助け舟を出した。
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