第四十五章 傷だらけのGOD

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「美緒......ごめんなさい。ごめんなさい!」 君子は、戸惑いを見せる美緒を他所に、人目も憚らず声を上げて泣き崩れた。 「何であなたがここに......それにごめんなさいって......」 美緒は全く状況が飲み込めない。ただ唖然とするだけだった。 するとエマは泣き崩れるその人の体を支えながら、ゆっくりと美緒に告げた。 「この方が今回の事件の依頼者です。そして驚かないで下さい。あなたの実の母に当たる方です」 美緒は一瞬耳を疑った。 今自分は何を言われたのか? あまりに唐突なエマの発言に、美緒は完全に頭が真っ白になった。 ついさっき、実の姉に会ったばかりだ。 そしてその姉とは言葉すら交わす事無く、あっという間に逝ってしまった。 まだ姉の事についても全く心の整理が出来ていないこの状況下において、今度は実の母。 この企業の独裁者を指差して「あなたの母です」と言われた所で「はい分かりました」と簡単に言える程、美緒の頭はシャープに出来ていなかった。 しかもこの事件の依頼者は自分では無く、この母なる人物と言う事らしい。 もう頭は爆発寸前だ。 「ちょっと、何言ってるんですか! 依頼者は私です。それにこの人が私の母親って......ここに居る金山君子社長が私の母親だって言うんですか!」 カルラ物産の独裁者であるこの女社長は、何が起ころうとも常に気丈に振る舞い、美緒の知る所で弱みなどを見せた事は無かった。 今も声を張り上げて泣き続けるその姿は、それまで美緒が持っていたイメージとは程遠いものであった。 実に弱々しく見える。 これが本当にあの金山君子社長? 目を疑うような光景だった。 会議に参加したあの幹部達もこの姿を見たら腰を抜かすに違いない。
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