第三章 踏切

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美緒と接する者は必然と皆、彼女と距離を置いた。人は皆、防衛本能を持っている。 お通夜に参列した友人二人もその例外では無かった。一定の距離を保っていた事は否めない。 ただ一人、皆と違う者がいた。 それが斉田雄二だった。 斉田雄二は全てを曝け出し、美緒と接した。 また美緒もそんな雄二にだけは、全てを曝け出し接することが出来た。 美緒は生れて始めて、身も心も許す事が出来る人に出会えたと感じていた。 そんな中でのこの事件...... 美緒は完全に生きていく自信を無くしていたのであった。ふとするとまた絶望感が込み上げてくる。 雄二さん...... 美緒は暗黒の世界の中で、何度も雄二の名を呼んだ。 「目的地に到着したぞ」 圭一は車を降り、外から助手席のドアを開け、美緒の手を取った。美緒はハッと我に返る。 「大丈夫かい? 顔色が悪いようだが......目隠しして車に乗ると、みんなどうも気分が悪くなるようだ」 みんな...... それは複数の人をさす時に使う言葉だ。 一体この男は、過去に何人の人をこの車に乗せて、ここへ連れてきたのだろう...... この男の言う事を信じるなら、それらの人達は皆すでに亡くなっている。 亡くなった人達が座っていたこの助手席に自分が三十分も座っていた事が今になって怖くなった。 出来る事ならこの目隠しも外したい...... この時美緒の心の奥底では、少しだけこの男について来た事への後悔の念が生じていた。 ただここで引き返せば、この男に負けた事になる。 絶対に引けない!...... 美緒の心の中ではそんな葛藤があった。ただ、そんな葛藤を圭一に悟られたくはない。 あくまでも気丈に振る舞い、そして言った。 「どこへでも連れて行って下さい」 それはまるで自分の意志の強さを誇示するかのようだった。 「承知した」 圭一はそんな美緒の内面の変化に気付いているのか、いないのか? 淡々と美緒の手を取り、歩き始めた。 「ここから下りの階段だ。足元に気を付けてくれ」 美緒は圭一の腕を強く握り、一段一段と慎重に階段を下りて行った。
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