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「美緒さん。実はその通りなんだ」
圭一はエマが体を支えるその人を見詰めながら言った。
「まずは落ち着いて私の話を聞いて」
エマは泣き崩れる君子をポールに任せ、美緒の正面に立った。
「美緒......美緒......」
君子は尚も声を張り上げて泣き続けている。
もう一人の娘である恵子が亡くなった事は知っているはずだ。
君子も胸が引き裂かれる思いでここに来ているに違いない。
「......」
美緒は無言。声を発しようにも、何を発していいのか分からない。
「金山君子さんがEMA探偵事務所に来られたのは九月七日になります。
美緒さんが事務所に来られた日の三日前に当たります。その日は何の日か分かりますか?」
「......はい。確か雄二さんが亡くなった事を知って、私がリストカットをした日かと思いますが」
「その通りです。その日我々は君子さんから二つの依頼を受けました。
一つは自分の大事な娘を自殺にまで追い込んだ憎き雄二さん殺害犯を抹殺してほしいという事でした。それともう一つ......」
「もう一つ?」
「そうです。もう一つの依頼は、幼くして手放してしまった自分の命より大事な娘を自殺させないという事でした」
「自分の命より大事な娘......」
美緒は思わず呟いた。
エマは続ける。
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