第四章 導きの三姉妹

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二人はそのまま扉の先へと進んで行った。中は驚くほどに静寂している。 それはまるで音の無い世界だった。 人の気配は全くしないが、食べ物を調理した匂いと、かすかなタバコの匂いがする。 ここが地下であること、土足であがっている事を考えると、日本である以上、まず住居では無い。 また室温は外と比べて、明らかに低い。 ついさっきまで冷房が掛かっていたに違いない。 つまりそれは、ここに誰かが居た事を示している。誰も居ない部屋に冷房を掛ける人はいない。 美緒は、ついさっきまで営業していた飲食店の中と確信していた。 店内を七メート位進んだであろうか。 再び扉を開ける音がする。 続いて扉の中へと進んだ。 そこで圭一は立ち止った。 この後、自分はどうなるのだろう...... 言い知れぬ不安が美緒を襲う。 美緒は押し寄せてくる恐怖と必死に戦っていた。 「もう目隠し外してもいいぞ。美緒さん」 耳元で聞こえる圭一のしゃがれた低い声。 美緒は手の震えを必死に抑えながら、ゆっくりと目隠しを外した。 三十分以上続いた暗黒の世界。 目隠しを外した瞬間、現世に戻ってきたような錯覚に囚われる。  暗黒に慣れきってしまった美緒の目。突然開かれた現世の光にはついていけない。 「眩しい」 美緒は開きかけた瞼を即座に閉じた。 「徐々に慣れて来る。ゆっくり開けるといい」 恐る恐る薄目を開けると、目の前に立つ一人の女性が浮かび上がってきた。 誰? その女性はとても若く、とても愛くるしい笑顔で自分を見詰めている。 「ようこそEMA探偵事務所へ。お疲れになったでしょう。お掛け下さい」 若い女性は、笑顔を崩す事なく、奥のソファーに座ることを勧めた。 美緒は言われるがまま、ソファーに腰を下すと、顔を上げ、ゆっくりと四方を見渡した。 この事務所の出入り口は、今自分が入ってきた扉が一つだけ。 その手前には圭一という屈強な男が仁王立ちしている。 自分をここから逃がさないよう、とうせんぼでもしているのか? それはちょっと考えすぎ? いや分かったものでは無い。 次にすぐ自分の後ろに立つ背の高い男。 流し目で見た限り、外人のように見える。 外国の傭兵か? それともマフィア? 少し軟弱そうには見えるが、後ろから抑え込まれたら手も足も出なさそうだ。
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