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「一緒に署長室から出たとき、初めてちゃんと見たんです。小松さんの目を」
「目ですか?顔じゃなくて?」
小松さんが不思議そうに訊く。
「そうですよ」
ちょうど赤信号で止まったので、顔を向けてまっすぐ彼女の目を見る。
そうだ。この目。
この目に惹かれた。
色つきコンタクトレンズで黒目を大きく見せたり、まつ毛をバサバサにしたり、そういうことは、していない。
力を宿す大きな目。
いつまでも見ていられる。見ていたい。そんな目だ。
最初のひと月ほどは、目しか記憶に残ってなかった。
目が、あまりに印象的で。
だから毎朝会うたびに、あぁこんな唇だった、こんな髪型だったと、思いながら見つめていた。
このことは、誰にも言ってない。
こういうのを不用意にしゃべるとまた変わり者扱いされると、知っているからだ。
同じ理由で、誰にも言わずにいることは、他にもある。
たとえば、小松さんの注射する姿をセクシーだと思っていること。
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