◆8章◆現場だった部屋で

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「一緒に署長室から出たとき、初めてちゃんと見たんです。小松さんの目を」 「目ですか?顔じゃなくて?」 小松さんが不思議そうに訊く。 「そうですよ」 ちょうど赤信号で止まったので、顔を向けてまっすぐ彼女の目を見る。 そうだ。この目。 この目に惹かれた。 色つきコンタクトレンズで黒目を大きく見せたり、まつ毛をバサバサにしたり、そういうことは、していない。 力を宿す大きな目。 いつまでも見ていられる。見ていたい。そんな目だ。 最初のひと月ほどは、目しか記憶に残ってなかった。 目が、あまりに印象的で。 だから毎朝会うたびに、あぁこんな唇だった、こんな髪型だったと、思いながら見つめていた。 このことは、誰にも言ってない。 こういうのを不用意にしゃべるとまた変わり者扱いされると、知っているからだ。 同じ理由で、誰にも言わずにいることは、他にもある。 たとえば、小松さんの注射する姿をセクシーだと思っていること。
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