2人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の目覚めは最悪の一言に尽きる。
憎らしいけど、寝汗が少し多かった以外は、特に私の身体に異変はなく、ただただもやもやした嫌悪感だけが残っていた。
食欲も大して沸くわけではなかったけれど、ちょっとした反抗にコンビニのホットケーキを食べ、学校に向かう。電車も登校の道も、出身の都合で一人だけだった。
今日も朝から、田中くんは窓際で肘を付いてボーッとしていた。
あの夢のような何かがもし本当に田中くんに関係するなら、それは田中くんに聞けば全て解決するのかもしれない。でも、もしただの夢だったら恥以外の何でもないから、聞くのを止めた。
授業中も頑張る気が起きず、私は巧妙に隠した机の下でスマートフォンを開き、いつもの先生のブログのカテゴリーから、明晰夢の考察に飛んだ。
明晰夢とは、自分が自分の夢の中にいると認識できる状態のことを言う。その状態では現実と同じように五感を持ち、思考が複雑になり現実の体が活性化すると目が覚める。二年前のブログは更新されていない。私の知識も変わらない。
彼は今日、もう一度迎えに行くと言った。本当なら、今日寝ることはつまり彼に会うことを意味するわけだ。逆に言えば、それが起これば明晰夢ではないと断言できる。
夢は、見たあと覚えていないから夢なのだ。二度と見られないから夢。私は全て覚えている。記憶を保って二度見ればもはや夢ではない。
「やっぱり、寝ないと分からないかなあ……」
「ほう、授業中にそこまで堂々と居眠り発言をするか。立派なことだな」
「いっ!?」
クスクスと周りから笑い声が聞こえている。まさか、声に出てた?みんながこっちを見ている。やらかした。これだから考え事は………って言っても止められないんだけど。
「失礼な生徒には授業後の雑務を担当してもらおう。精々授業中に休むように」
「え、あの、ちょっと!」
肩を叩かれたら最後、何も無かったかのように授業は進む。私は既に仕事を回避することはできないのだ。
田中くんはいつも通りだった。彼の場合は目が開いているけれど。
最初のコメントを投稿しよう!