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教室の一番窓際、最後列。夏は涼しく冬は暖かい、そして先生の目も届かない特等席に、田中くんはいつも座っている。
整える気もないボサボサの黒い髪に、見る人が見ればまあ魅力を感じないでもない、気だるそうな目と開かない口。
思えばいつもその席に座っていて、何度となく席替えをしてもそれが変わったことはない。誰も指摘しないのは、きっともう当たり前だと思っているからだろう。
教科書とノートを開き何をするわけでもなく、田中くんはいつも頬杖を付いて、窓の外の何かを見ている―――――わけではなく、空想に浸っている。
田中くんの脳内には、妄想がいつも広がっているらしい。春に隣の席だった私が話し掛けたのが彼との最初で最後のコミュニケーションだったけれど、その時田中くんはこう言っていた。
『今話を考えてるんだ、後にして』
―――と。
年度始め、私も高校受験に成功して都会に出てきた身として、友達はいなかった。周りの女子は中学からのグループを作っていたし、何の呪いなのか、私の四方は男子ばかり。だから、その言葉で若干引きつつも、田中くんと少しだけ話した。
結果。彼は妄想癖がある、くらいしか分からなかった。
曰く、彼は常に頭のなかで、物語を作り出しているらしい。それも、立ち位置は違えどそこには必ず田中くんがいて、何かを成し遂げるハッピーエンドだそう。
ちゃんちゃら可笑しかった。別に馬鹿にしたわけじゃない。私だって小さい頃は、お姫様に憧れたり、白馬の王子さまを夢見てみたり、もっと現実的に、素敵な初恋の人のお嫁さんになってみたかったりした、けど、それはあくまで空想の話。
日本で姫なんて立場に付くのは無理があるし、白馬が公共の場に現れたら警察が声をかけるだろう。初恋は残念ながらまだ叶わず、恋をしたところでその人と結婚できるかと言うと微妙なところ。
その時会話を切り上げた私は、そのまま反対側の男子に話し掛け、それから立ち上がって近くの大人しそうなグループに混ざっていった。
田中くんは、私と話すとき以外は、外を向いていた。
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