田中くんの常日頃。

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それからと言うもの、私は毎日少しずつ、田中くんを見ていることにした。授業中バレないように。ありったけのくじ運で最後尾を引いて。 休み時間も授業中も、田中くんは必ず同じ姿勢で外を見ていた。最初は珍しがっていたクラスの人も、夏を過ぎる頃には話し掛けなくなっていた。田中くんの中では、私に妄想癖を見せたことで、クラスへの説明は終わったと感じていたのかもしれない。もちろん私に、クラスの全員と絡みに行くような人に何かを言う度胸はなく、ひっそりと妄想に更けていた。 秋に入っても田中くんは変わらずそこにいた。変わったことと言えば、ずっと見続けた私が、田中くんの妄想を少しだけ読み取ることができたことくらい。 まず、田中くんの妄想は何種類もあり、そのどれもに田中くんが登場する。これは聞いた。 田中くんの表情は、ほんの少しだけど揺れている。楽しそうなときと、悲しそうなとき、それから辛そうなときと、わくわくしている時は分かるようになった。 朝からとても楽しそうなときは、必ずお昼頃には一度悲しそうな表情になる。そうなったときは、放課後まで待ってみると、元通り、いや、もっと楽しそうな表情に戻っている。きっと彼は主人公。ハッピーエンドに終わった物語の中で、幸せに暮らしているのだ。 また、楽しそうだけれど、少し悪い感じを漂わせているときもある。この場合、お昼頃にはやはり悲しそうな、になり、そして、放課後まで何も変わらない。きっと彼は悪役。志半ばにして正義の味方に討たれることこそ役割なのだ。 「ねえ、さっきから田中なんて見て何してんの?」 「え、あ、ううん、何でもないの。何か言われたような気がして」 私に初めて話しかけてくれた子だ。もうお互い名前をわざわざ呼ぶ関係は通り越した。結構気があうものだから、とても早かった。あとはこれを、少なくとも高校にいる間は守りきろうと心に決めたものだ。 田中くんが私に話しかけることなんて有り得ないけれど、何を言っても向こうは訂正してこない。実際見ていたのを誤魔化す理由付けにはうってつけだ。なんで誤魔化さなきゃならないのかって感じだけど。 今日も田中くんは、一日を窓の外で過ごしていた。
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