田中くんの常日頃。

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田中くんの観察に、まさか放課後まで使うつもりも理由もない。帰宅部らしく順当に家に帰り、多少の勉強をして、観察日記を書いて就寝。お風呂は入るがご飯は食べない。太りやすい体質だから。朝食べれば良いし、それよりも日記の方が大事だ。 田中くん観察日記。こうしてタイトルを見るたび、私はともすれば恋する乙女か何かのように映るのではと心配になる。私自身はまったくそうではなく、本当に夏休みの自由研究レベルの知的好奇心だと自負しているけど、もしかしたらお母さんがここに入ってこないとは限らない。他には何もないのに鍵をかけてしまっては、さらに信憑性が増す。 それはともかく日記だ。 今日の田中くんは、朝は悲しそうな顔をしていた。珍しいパターンだ。その時の田中くんはそういうキャラクターだったのだろう。二時限目を終える頃には彼はさらに悲しみを背負っていたらしい。お昼休みには、流石の周りも心配するほど負のオーラが見えた。 しかし事態は急変、午後の授業が始まり、最後の六限の頃には、楽しそうにも見えていた。もちろん、クラスメイトには、重々しさが無くなったくらいにしか分からない変化だけど。 放課後はとても楽しそうだった。みんなにはあれが伝わっていないらしく、誰も気に留めなかったみたいだった――― 「…………ふう………」 何度見ても、私が病的に彼を観察しているようにしか見えない観察結果だった。みんなには分からない彼の変化に自分だけが気付いていて、それを書き留めて日々少しの楽しみにしている自分が情けない。もっとろくな趣味を持てないものだろうか。せめて器用貧乏のような自分の能力さえ何とか尖らせられれば違うのかもしれない。 ともかく、これらから分かる田中くんの妄想のキャラクターだけど、悲劇のヒロイン的な位置付けではないだろうか。悲しみを背負って生まれ、さらにそれが増え、主人公に助けられ克服する―――お話ではよくあることだ、田中くんの中でもよくあるきっとある。 この頃、田中くんは主人公と言うより脇役や悪役が目立つようになってきていた。その方が妄想に適しているのかは分からないが、予想するのは結構楽しい。陰険で根暗なのは重々承知しているが、どうも嵌まってしまって抜け出せない。 そして、いつも通りの隠し場所にノートをしまいこむと、そのまま私は眠りについた。 そして、私は私の夢に。平日田中くんを考えない、短い時間だ。
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