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目が覚めると、知らない天井だった。
―――なんて、冗談。
毎度毎度田中くんの妄想を観察して考察していれば、勝手ながら私にも想像力くらい増えていく。それが良いことなのかは分からないけど、少なくとも人生が少しだけ楽しくなるのは間違いないし、所謂明晰夢というやつに気付きやすくなった。
それが今だ。
私の部屋は八畳しかない。勉強机とセミダブルベッド、それから本棚がいくつか横並びになっているだけの、色だけは辛うじて女子力をアピールしたオレンジ色の部屋だ。
しかし、今私がいるのはどこを見ても真っ白な世界。寝ているベッドだけが、現実世界を引き継いで色を持っている。だからこそ分かる。これは夢だ。明晰夢は危険なんて知ったことか。私は夢の世界で自由に生きるのだ。
布団をはねのけ首を振って気だるさを飛ばす。ここで豆知識だけど、明晰夢を長く見続けるコツは、動揺しないことと、難しいことを考えすぎないこと。
「とっても面倒な思考しているところ申し訳無いね。ちょっと話を聞いておくれよ」
「ふぁいっ!!?」
心臓と裏声が飛び出た。まさか私の夢で、誰かが向こうから話し掛けてくるとは。まあこれまでの夢の記憶なんてほとんど無いし、もしかしたらよくあることなのかもしれないけど。
「愉快な返事をどうも。こんにちは。君が遠野遥ちゃん、合ってるかな?」
「え、ええ………合ってます、はい。はい」
どんな人か気になって仕方無い。起き上がった背中から来ているのは若々しい少年の声だ。でも、明晰夢に出てくるのは深層意識で望んでいるもの、なんてのもあるし、もしかして私、年下が好きなのか。だとしたら彼氏ができないはずだ。同年代に興味はないってやつか。
「いやあ、良いよ。良い感じに田中くんに毒されてる。惹かれてるレベルだったらどうしようかと思ったけど、思考に名前が出てこないところを見ると眼中に無いね。珍しい虫か動物園の動物みたいな扱いかな」
後ろを振り向いた。
「ああ、僕は………えー………色んなのがあるんだけど、そうだな………」
金髪、凹凸も起伏も無い体つき。でも、今まで会った誰よりも顔形は整っている。外見上は、やや幼いくらいで外には何の問題もない気がする。自分が恋愛対象にするには少し小さすぎるか。
「うん、イヴが良い。イヴって言うんだ。お褒めに預かり光栄だよ、ハルカ」
幼女でも老人でも厳格な青年でもなく、小学生男児がいた。
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