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痛みどころか違和感すら感じない。それどころか………刺さった箇所を触ってみても、手も背中も分からない。感覚が、無い。悴んで神経が麻痺するよりももっと凶悪に、自分の手が無いみたいに。
「まあ、実際に自分が刺されているのに、自分を客観的に省みることができる人なんてめったにいないよね。そもそも、君が初めてボクの方を向いたときから、ずっと刺さっていたものだ。流石に気付かないのはおかしくないかい」
変わらず男の子は座ったまま。手に持っていた刀はもう無くなっている。あれは、本当に私の気を引くためだけの物だったのかもしれない。
「うんうん、流石に田中くんに毒されただけある。想像力豊かと言うか、まあ田中くんなら先の展開まで考えるだろうけどね」
「どういうこと………夢じゃないの?おかしいよ………」
「だから、精神体なんだって。君の思い通りに世界は動かない。君は痛くもないし何も感じない。これ以上の証明は無意味だし、今度こそ勝手に話すよ」
「私、おかしく……ああ、ああああ………お、お母さん………」
「余計な知識を付けるから混乱してるんだね。ぼくの証明には好都合だったけれど、同時に必要以上に怖がらせてしまった」
「目、覚めろ………!」
「ま、そうでなくても自分に包丁が刺さったら錯乱もするか。いや、ごめんね。ボクは話を聞いてほしかっただけなんだよ。話を聞いて、あわよくば………と言うより是非とも協力してほしかったのさ」
目が覚めない。夢は実体への刺激で目が覚めるか、思考が複雑になればそれで終わるはず………こんなのおかしい。それとも、ただ知識が足りなかっただけ?
「まあ何でも良いや。田中くんに興味を示した女の子は君だけだし。さて、ハルカ。君にはこれから、田中くんの世界に入り込んで、物語を終わらせてもらうよ………明日また、同じ時間に君を迎えにいくからね」
ただの白さは白い光になって世界を包み。
そして、また私はオレンジに戻っていた。
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