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「いらっしゃ……あ、」 奥のモニターではいつか見たことのある洋画が字幕で流れていた。 音量は最小限、ふたつあるテーブルの手前を陣取るグループ客の会話の邪魔はせず、カウンターの一番奥で画面に見入る一人客には届くヴォリューム。 来客はその二組だけだった。 四人連れのグループ客のテーブルには既に料理の皿が三つ並んでいたから、三組目の来客が迷惑な程忙しい時間帯ではないのは見て取れる。 でも、どうやらグループ客の方は常連ではない様子。 新規客がいる時には彼は少しよそよそしい。 ――よそよそしかった、少なくとも私が知っているあの頃の彼は。 「びっくりした、誰かと思った」 「ご無沙汰、してます」 覚えてくれていた。 それだけで、ひとまずホッとする。 「すごい久しぶりだね。どうしたの?」 『どうしたの?』……そうか。 週三回は来ていた店に年単位の空白の後にもう一度踏み入れるには、何か理由が必要らしい。 「えっと、最近こっち戻ってきて。たまたま近くに用事があったから」 「ああ、そうか。どこだか西の方に移り住んだって聞いてたわ」 納得したように頷いて、カウンター席に促される。 西の方、というアバウトなその情報は、一体どこから流れたのだろう。 知っている顔は、今日は見当たらない。
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