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「ここに来れば、誰かいるかなと思ったんだけど」 「あー……、りっちゃんが来てた頃の常連客で今でも来てくれるのは三、四人かな」 あ、名前も。ちゃんと。 それから彼は、当時の仲間たちの名前をいくつか挙げた。 あの頃付き合っていた誰と誰は別れてから来なくなったとか、その代わりに誰と誰が結婚したとか、誰は転勤で遠くへ行ってしまったとか、誰は今でもよく来てくれるとか。 みんなそれぞれ仕事なり生活環境なりに変化があって、あの時の様に連日ではなくなってしまったとか。 聞かされずとも、当時の仲間に入れ替わるように私の知らない常連客が増えているのは分かった。 カウンターでグラス片手に煙草をふかしながら映画を見ている彼なんか、まるで自宅のように寛いでいるもの。 「りっちゃんはどうしてるんだろうねって、たまに話に出てたよ」 知らされるそれは、過去形で。 空白の年月の間に集まる人が入れ替わり、話にも出なくなり、今の今まで忘れられていたんだろう。 「戻ってきたって、じゃあもうずっとこっちに?」 「うーん、多分」 「連絡くれれば、人集めといたのに」 「あはは、そこまでは」 小さな店だ。 兄弟で始めたのに途中で弟が辞めてしまって、それからはずっと彼が一人で回している。 誰か人を雇えばいいのに、でも多分そうしてしまったら、常連客にとって居心地の良いこの空間の色がきっと少なからず歪んでしまうから。 人が集まるのは嬉しい反面、料理もドリンクも回しきれなくなるから、大変なのも知っている。
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