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「――はい、お待たせ」 彼はカウンター越しではなく、わざわざ表に回って私の横に立ってから静かにグラスを置いた。 濃い琥珀色の上に、たっぷりの白がのったロックグラス。 削ったチョコが白を飾っていた。 マドラー代わりにそえられているのもチョコのスティック。 色味はシンプルだけど地味すぎないように飾ってくれたのが少し嬉しい。 確実にこれは『いつもの』とは違うけれど。 「ええとこれ……カルーアミルク?」 隣に立つ彼の顔を見上げながら、そう言えばあの頃、お酒を飲んだ最後の締めと言ってコーヒーを頼んでいたのを思い出した。 今じゃやらなくなった、あの頃だけの習慣。 彼の記憶の片隅に、それが残っていたからだろうか。 「ホワイトルシアン。カルーアとは違うコーヒーリキュール。生クリーム多めにしといた」 「私っぽいんだ、これ」 「甘く見てかかるとやられるとことか?」 「え、私甘く見える?」 「はは、冗談。それ見かけによらず強いから、気を付けて」 「ん……、ありがとう」 綺麗に二層に別れたそれは、混ぜたら濁ってしまいそうで躊躇った。 濁った方が、私っぽい気はするけれど。 「りっちゃんっぽいでしょ。白いようで黒くて、黒いようで白くて」 「え、何だろうそのイメージ。そんなに表裏ある?」 「いや、二面性? んー、ミステリアス」 「ははっ!」 ミステリアスとは、また。 それは冗談だったのか、彼も可笑しそうにしている。 「で、甘いフリして、強い?」 「いや、逆かな」 「……逆?」 不意に、真面目な顔になる。 躊躇っていた私の横から手が伸びて、マドラー代わりのチョコでゆっくりくるりと一周。 その動きに合わせて、白と黒が渦を描いた。
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