第3章 次世代の司令官

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ステファーノ総司令の海軍増強作戦が開始されて数日後のことである。 「エランツォ。まだマリア嬢にダイワーク海軍司令官は早くないか?」 アルバートは苦笑いのような表情で言う。ここはダイワーク海軍のエランツォの執務室だ。 「そうかしら?別に今なるんじゃないわよ。遠い将来の準備を今するだけじゃない」 「それはそうなんだが、仮にも彼女はアイゼン公爵家のご令嬢だぞ。それが海軍指令官は無謀だと思うんだが……」 アルバートは常識を知らぬ人間を教え諭すかのように言う。 「あんたの探している、ダイワークの紅い獅子を司令官に推薦するほど無謀じゃないわよ」 憮然とした表情でエランツォは言い返す。 「なんでだよ。自分をダイワーク海軍と名乗ったんだろう?そして相当強いそうじゃ無いか?」 「ダイワーク海軍の司令官は剣がお得意なだけじゃなれないわよ」 エランツォは言う。 「それはそうだが、強いことは司令官の必須条件だ。軍略や智謀に長けているだけなら参謀本部にでも行けばいい」 「……」 「それにもったいないじゃないか?そんなに強いのに日の目を見ていないなんて……」 アルバートのその言葉にエランツォは渋い顔をする。 「それに知っているか?今回の司令官育成作戦が一段落したら、今度は軍の補強として強い兵士を募るそうだ」 「それがどうしたのよ?」 「その赤い獅子に司令官は無理だったとしても、我が第五艦隊に迎え入れることが出来ないかと思ってな」 「……」 アルバートのその言葉にエランツォは少し悲しそうな表情をする。 「そういえば、エランツォ……」 アルバートはそこまで言ったところで言葉を止めた。 「なによ?」 エランツォの問いかけにアルバートは少し考えてから言う。 「……いや、何でもない」 アルバートの歯切れが悪い。 こういう、言いかけた事をやめられる。これはエランツォの最も嫌う事だ。 「何よ。アルバート。言いたいことがあるなら言いなさいよ」 「いや、ごめん。なんでもないんだ」 こんな風に言われて「そうなの」 と引き下がるようなエランツォでは無い。 「どうしたの?途中まで言ったならいいなさいよ」 「……いや、これを聞くとお前、機嫌が悪くなるから…………」 こう言われてエランツォにも思い当たる事がある。最近、アルバートに聞かれて機嫌の悪くなった事。 それはリュシアンのことだ。
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