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ステファーノ総司令の海軍増強作戦が開始されて数日後のことである。
「エランツォ。まだマリア嬢にダイワーク海軍司令官は早くないか?」
アルバートは苦笑いのような表情で言う。ここはダイワーク海軍のエランツォの執務室だ。
「そうかしら?別に今なるんじゃないわよ。遠い将来の準備を今するだけじゃない」
「それはそうなんだが、仮にも彼女はアイゼン公爵家のご令嬢だぞ。それが海軍指令官は無謀だと思うんだが……」
アルバートは常識を知らぬ人間を教え諭すかのように言う。
「あんたの探している、ダイワークの紅い獅子を司令官に推薦するほど無謀じゃないわよ」
憮然とした表情でエランツォは言い返す。
「なんでだよ。自分をダイワーク海軍と名乗ったんだろう?そして相当強いそうじゃ無いか?」
「ダイワーク海軍の司令官は剣がお得意なだけじゃなれないわよ」
エランツォは言う。
「それはそうだが、強いことは司令官の必須条件だ。軍略や智謀に長けているだけなら参謀本部にでも行けばいい」
「……」
「それにもったいないじゃないか?そんなに強いのに日の目を見ていないなんて……」
アルバートのその言葉にエランツォは渋い顔をする。
「それに知っているか?今回の司令官育成作戦が一段落したら、今度は軍の補強として強い兵士を募るそうだ」
「それがどうしたのよ?」
「その赤い獅子に司令官は無理だったとしても、我が第五艦隊に迎え入れることが出来ないかと思ってな」
「……」
アルバートのその言葉にエランツォは少し悲しそうな表情をする。
「そういえば、エランツォ……」
アルバートはそこまで言ったところで言葉を止めた。
「なによ?」
エランツォの問いかけにアルバートは少し考えてから言う。
「……いや、何でもない」
アルバートの歯切れが悪い。
こういう、言いかけた事をやめられる。これはエランツォの最も嫌う事だ。
「何よ。アルバート。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「いや、ごめん。なんでもないんだ」
こんな風に言われて「そうなの」 と引き下がるようなエランツォでは無い。
「どうしたの?途中まで言ったならいいなさいよ」
「……いや、これを聞くとお前、機嫌が悪くなるから…………」
こう言われてエランツォにも思い当たる事がある。最近、アルバートに聞かれて機嫌の悪くなった事。
それはリュシアンのことだ。
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