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新緑の映える季節になり、毎年恒例の歌唱大会が訪れた。
歌の得意な王者……と名ばかりのひよこのピーちゃんや、露店目当てのかっぱらった太郎も鼻息を荒くしていた。
もちろん、酒屋のゲーさんもいつにも増して、ダイヤモンドに光を当てた時のような輝きになり、酒の売り上げをupしていた。
「これより第11,530回歌唱大会を開始いたします。」
トロリと手から滴り落ちそうな蜂蜜を舌で舐めとりながら、毛深熊五郎氏は開会の言葉を告げた。
「この戦いは負けられない!たぬきのこアピールのためにも!」
見た目はたぬき、尻尾には大きなキノコを付けた種族【たぬきのこ】のキヌタがそう言うと、同じ種族のコノキは呆れたように隣で肩を竦めた。
「キヌタ、歌得意だったっけ?前に歌ってたら騒音でガラスにヒビ入ってたよね?」
「あれは喉の調子が悪かったんだよ!それに今日は特別ゲストが来てるらしいからな。俺の歌声の凄さを解って貰えるはずだ!」
何処から来るのか分からない自信だが、キヌタは闘いでも王者となっていたため、コノキも『キヌタなら何かしてくれるかも……』と思っていたのである。
ステージでは特別ゲストの紹介が始まっていた。
「今回の特別ゲストは……見た目はねぎま!心もねぎま!……山椒グミ男さんです!」
鶏肉とネギが交互に挟んである着ぐるみに、頭からは赤い丸い『グミ命』と書かれた被り物、更に黒いマントを付けて深々と頭を下げている。
「皆さん、ねぎぇぎぇー!山椒グミ男です!宜しくお願いします!」
「ねぎまだな。うん。」
「え?!それだけ?突っ込みどころ多いと思うよ?……着ぐるみだし、山椒グミ男とかって名前だし」
コノキが慌ててキヌタに詰め寄ったが、キヌタはニコニコとしながらステージを見つめていた。
「個性大爆発だな。うん。良いと思う。礼儀正しいし……」
「キヌター!コノキー!」
急に呼ばれて振り返ると、花柄のレジャーシートがばっさばっさと翻り、テンガロンハットを押さえながら走ってくるギンタローが見えた。
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