徐々に増える秘密

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 皆さんは墓場まで持っていく秘密ってありますか?  僕はあります。現段階で僕が墓場まで持っていく秘密は二百九十九個。そして記念すべき三百個に突入状態になろうとしています。誰か助けて、誰でも良いから助けてヘルプミー。 「頼む! 此処で見た事は秘密にしてくれ!!」 「……あ、はい」  目の前に土下座をする男が一人。それを眺める僕が一人。傍から見たら僕が脅迫してんじゃね? って勘違いされがちな状況である。違うから、脅迫なんてしてないから。寧ろ僕が脅迫されてんじゃね? だって秘密にしろって何気に脅迫されてるよね。多分。  僕は静かに読書をしようと思って放課後図書室に寄った。ここまでは特に問題はない。問題はその後である。図書室に入って暫く読書に没頭していたのだが、妙に荒い息遣いが聞こえたので読書を止めて発生源を見に行った。だって、読書に集中出来ないし。軽い気持ちで注意しようとしたんだ。  発生源らしき所に辿り着くと図書室の隅っこに僕の知らない男子学生の後ろ姿が見えた。すみません、ちょっと息遣いが荒々しいので抑えて頂けますかと声をかけると学生は凄い勢いで此方を振り向いた。怖いからやめてよ。 「み、見たのか?」  見た? まぁ、確かに僕はこの学生を見たので肯定をする。すると土下座をして僕に秘密にしてくれと頼まれたのだ。うん、ちょっと意味分かんない。怖いから取り敢えず肯定をする。 「本当か!? ――良かった。本当に良かった。お前は良い奴だな!」 「え、あ、はぁ……別に」 「じゃあ、俺が嫁にキスしてたことを秘密にしてくれな?」  嫁にキス? 隅っこには僕と土下座学生しかいない。何処に彼の嫁がいるのだろうと考えていると右手に持っている携帯の画面にアニメのキャラクターが映し出されていた。……成程。彼はこのキャラクターのことを嫁としていて、その嫁とキスをしていたことを僕に見られて秘密にしてくれと頼まれたのか。 「うん、わかったよ(……くっだらねー!)」 「じゃあ、何か困った事があったら何でも言ってくれよ。力になるからさ」 「うん、わかったよ(いや、君の所為で困らされてるのですが助けてくれますか?)」  ――こうして僕が墓場に持っていく秘密の数が、記念すべき三百個になった。
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