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私は言葉です。
木本蓮(きのもと れん)さんの言葉です。
私は今、彼女の心の奥底で眠っています。
彼女は1年、私を使っていません。
最後に私が外に出た時は「いってらっしゃい」という形をしていました。
その時は、「いってきます」と優しい声が返ってきました。
蓮さんの恋人の、窪田夕(くぼた ゆう)さんの言葉です。
蓮さんが夕さんを愛しているように、私も夕さんの言葉を愛していました。
そして私は、いつもみたいに日が暮れ始めて、蓮さんが鼻歌を歌いながら作った料理が出来た頃にまた、夕さんの言葉と会うと思っていました。
あー、いえ、その時は思う、なんてこともしない位に当たり前でしたから。
蓮さんと夕さんと、何年も繰り返してきた私達、言葉の出逢いですからね。
でも、1年も私が外に出ないなんて......。
何かあったのでしょうか?
蓮さんの心はいつも、温かくて桃色なんです。
特に夕さんといる時なんて、冬の寒い日でも春みたいに温かいんですよ。
けれどこの1年は、冷たくて灰色なんです。
毎日、蓮さんの心には雨が降ってるみたいですし。
何か悲しいことがあったんでしょうか?
早く、蓮さんの心が治るのを待っています。
私は夕さんの言葉に早く会いたいな、と待ち遠しく思っています。
「ただいま」という優しい、夕さんの言葉に。
そしたら私は、とびきりの笑顔で「おかえり」と逢いに行きます。
......だから早く、帰って来て下さいね。
蓮さんと、待っていますよ。
待っていますよ。
いつまでも......。
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