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「そう決心した俺はその夜村から出た。まるで夜逃げするみたいにな」
「するとすぐに噂が広まったのか村人が探し始めた。それが罰を与えるために探してるとかなら見切りも付けたんだが、どうやらただ心配だから探してるらしく相当やりづらかった」
「だから決心が鈍らない内に現実に帰りたかったが、運悪くゆかりちゃんに見つかった。せめてゆかりちゃんにだけは見つかるまいと警戒していたんだがな」
「ゆかりちゃんは一目散にこちらへ走ってきては俺に抱きついてきた。絶対に離すまいというように」
「そんな甘い匂いを嗅いでいたら、甘い声を聞き続けていたら、俺はたちまち幸せになってしまう。帰る決心が鈍ってしまう。それじゃ駄目だ。駄目になってしまう」
「だから俺は自分の意思を伝えた。思えばただ一言言うだけで良かったんだ。他に好きな人がいるから君とは結婚出来ないと」
「それでもゆかりちゃんは心配してくれた。現実は寒くて寂しいとか、離れたくないとか・・・とにかく引きとめようとしていた」
「しかし俺の意思はもう揺るがなかった。だってゆかりは現実にいるんだから、ここにいては会えない」
「ゆかりちゃんはなにか悟ったらしく離れてくれた。ただここで気を抜いたのがまずかった」
「気を失う直前にゆかりちゃんは呪いをかけるように言ったんだ」
「嫌なことがあったらすぐに帰ってきていいからね・・・と」
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