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ニヴルヘイム、大魔王城。
一年を通してほとんど日の光の射さない九つの世界の最下層に位置するニヴルヘイムだが、今日は珍しく快晴だった。外に出なければもったいない、そんな暖かで過ごしやすい陽気。
この城に住む小さな少女も、そう思っているうちの一人であった。
「お嬢〜っ! 勝手に外に出ちゃ駄目ッス〜! お待ちくださいッスー!」
「こんな晴れた日にお外で遊ばないでいつ遊ぶの? 宿題なんてやってる場合じゃないでしょ!」
「そんなこと言って自分から机に向かったことなんてほぼないじゃないッスか! 外で遊ぶのも結構ッスけど、宿題終わらせてからにするッスよ!」
広い広い城の廊下で、追われる少女と追う青年。
追う青年は、名をマモル=タテナシ=レムゴー。深緑の天然パーマ、そして同じく緑色の瞳をしている小柄な男性で……現在では大魔王の近衛隊長を務めている。現大魔王とは旧い付き合いのため、さまざまな雑用もやらされている模様。
そして追われる少女は……白亜の髪を左側だけ黒いリボンで結んだワンサイドアップにしており、瞳の色は薄桃色。頭頂部から生える二本のアホ毛も、本人曰くチャームポイントの一つ。
名をシロナ=オリガミ=ベルゼクス。お嬢様と呼ばれているように、身分的には彼よりも上の立場だ。
「逃げ出したなんて知られたら、宰相殿にめっちゃ叱られるッスよ!」
「そしたらかーさまに庇ってもらうもんね! ていうかマモルがわたしの代わりに怒られてきてよ! そういうの好きでしょ?」
「いやまあ好きッスけども! 自分はお嬢のためを思って言ってるんスからね!?」
彼は現大魔王と出会った頃からドMであり、それは今も変わってはいないが、流石にお仕置きを肩代わりできるとは思っていない。
それに、シロナのことを考えての発言であることは事実だ。そこには何もやましい心などはない。
「またそれ! いつもわたしのため、わたしのためって……学校かお城での行事以外、ほとんどお外に連れて行ってくれたことなんてないくせに! わたしだってみんなと一緒に公園で遊んでみたいし、とーさまやかーさまと街の方までお出かけしたいの!」
この城に住み、国の中でも重要なポストに就いている親を持つシロナは、その行動を厳しく制限されていた。
と言っても、シロナは城の中では充分自由に振舞っている。ただ、シロナの奔放さは、この城の中だけには収まらないだけなのだ。
シロナの幼さ、そして父親の多忙さ故に、外出を制限されているのだが、その親心を彼女が知る由もない。
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