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「あいつ、マジで誤射しやがった!」
何かやらかすだろうとは思っていたが、ここまでスムーズにやらかすとは予想できなかった。
サイケデリックな光に包まれた魔王は、やがて白煙にその姿を隠し……それが晴れる頃には、子供時代の姿へと変貌していたのだ。
「……? あれ……? 私、いったい……」
見た目からの推定年齢、およそ12歳。
ぶかぶかのジャージを着て、戸惑いを隠せずにいる短い赤髪の少女が、そこに居た。
おそらく今は、記憶がこんがらがって曖昧な状態なのだろう。現状を把握できないのも当然。
「姉、ちゃん……」
紛れもなく、弟の記憶の中にあるかつての姉、そのものだった。
一度自分も同じアイテムで子供化したことは、勇者によって聞き伝えられてはいたものの、いざその現象を目にすると信じがたいものがある。
何故なら、二度と戻ることはない魔王の姿が、現実としてここにあるから。偽りやもしもの話ではなく、本当に実在した過去そのものが、現在に顕現しているから。
「あなたは……」
やはりまだ困惑の色が濃いものの、魔王少女は徐々に周りのことが見えていく。一番最初に目につくのは、当然目の前にいる弟だ。
ただし、この時代の魔王の知るはずのない姿。魔王少女からしてみれば、突然見知らぬ場所に立たされ、見知らぬ人物が目の前に立っているわけで。
「あ、ああ、俺は……」
怪しい者ではない。弟はそう説明する他なかった。
自分の時、姉や他の者がどう対応したのかは聞き及んでいないが……下手なことは言えない。現在の魔王に、どのような影響があるのかもわからないのだ。
なんとか正体を明かさず穏便に……と考えはじめた次の瞬間には、魔王少女が口を開いた。
「クロ……? クロだよねっ?」
「……っ!?」
結果として、弟の思考はまるで意味を成さなかった。一目見ただけで、魔王少女は目の前の成人男性の名を看破してしまったのだから。
これには弟も驚きを隠せない。確かに髪や目の色等、面影を残している部分も多いが、この頃の姉の知る自分とはだいぶ印象が変わったという自負があったからだ。
そしてこの動揺は、その問いに対する答えを言っているのと同じだ。
「わぁ、やっぱりクロなんだね! いつの間にか私より大きくなっちゃって」
魔王少女は、屈託のない笑みを成長した弟に向けた。
この状況下に置かれてさえ、弟のことを微塵も疑うことはしなかったのである。
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