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息を荒げながらも、叫んだことにより少しは落ち着きを取り戻した魔王は、顔の落書きを落とすべく、入浴を決意した。
おそらく弟が用意したのであろうか、机の上には着替え一式が用意されている。
こうして着替えを準備しておかないと、着替えを自分で選ぶことすらめんどくさがりそうな魔王が、今着ている下着やジャージをそのまま着回しかねない可能性を懸念したためである。
「あの野郎、勝手に私の机整理しやがったな……! 童貞が移るから触んじゃねーっつーの」
ぶつくさと文句を言いながらも、着替えはしっかり持って浴場へ向かう。
魔王の私室は三階、浴場は一階。動くのがかったるくてしょうがない魔王にとって、その距離でさえ億劫になる。
特に階段が疲れる。なんでエスカレーターを採用してないんだ、と購入当初抗議したことを思い出したが、その案は弟によってあえなく却下されていた。
「くっそ……マジムカつくわ……全身の関節千切れ飛んで死ね……!」
本人の関係がないところで勝手に思い出して、勝手にイライラして、とんでもないことを口走っていた。
しかし珍しいことではなく、彼女の脳内には無数の弟の屍が散乱しているのである。
弟へのイラつきを呪詛のようにブツブツ垂れ流しているうちに、ようやく浴場へ到着だ。
脱衣所のカゴに、乱雑に脱いだ衣服を放り込み、その不健康な肉体を露わにする。
外へ出ないために肌は白く、体全体が華奢という言葉では片付かないほど線が細い。
運動不足な割に全くと言っていいほど脂肪のない痩せ型だが、代わりに悲しいほど胸もない。よく弟に凹胸やらクレーターやらからかわれる。ムカつく。
一糸纏わぬ姿になったところで、浴室の扉を開けると、三日ぶりとなる風呂の湯気が魔王を出迎えた。
無論、風呂の用意をしたのも弟である。
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