LV10 心ここに在らず下に有り

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しばらく無音状態が続く中、コーラとポテチを持って戻ってきたメイドによって、再び時が流れ出す。 「おまたせ、しました……ねえさま?」 仰向けに倒れて手足を痙攣させる魔王の姿に、メイドは異変を感じ取った。 そしてそのメイドを見て、ようやく勇者も我に返ったのだ。 「はっ……僕は一体何を……あれ? メイドちゃん? いつの間に……?」 「ねえさま、ねえさまーーっ! だいじょうぶ、ですか、ねえさまっ」 勇者が状況を理解する前に、メイドは気を失った魔王に駆け寄った。 それから勇者は、先ほど自分が何をしたのかを思い出したのだ。 「あ、ああ……! アアアア!? けっ、穢れが、穢れが僕を蝕んでいくゥゥゥゥッ! は、早く消毒しなければっ……!」 穢れの塊たる魔王を素手で殴ってしまったことで、勇者はパニックを引き起こしてしまった。顔からは血の気が引いて、大粒の涙を流すほどに。 だが彼に残された僅かな理性が、魔王を介抱するメイドの姿を映した。 「メ、メイ、メイドっ、ちゃん……!?」 「ねえさま、しっかり、して、くださいっ。いま、おへや、まで、おつれ、します」 魔王をお姫様抱っこの要領で抱え、勇者に目もくれずメイドはその場を去っていく。 縋る気持ちでメイドの後ろ姿を目で追うも、勇者にはまともな思考能力は残されていなかった。 「はは……い、一体なにがどうなってるんだ……い、いや、先ずは消毒、しないと……穢れは、消毒、しないと……!」 掠れた声と、霞む視界。覚束ない足取りで、一歩後退した。 だが、下がった先は運悪く下りの階段。 足を踏み外した勇者は、そのまま背中から後ろ向きに転がり落ちていく。 階段のラストで後頭部を床に強打すると、目の前が暗くなっていくのが自分でもわかった。 「さて、仕事もひと段落したし、少し部屋に戻って休憩でも……ってうおわァ!? なんでコイツこんなトコで泡吹いて倒れてんの!? 死んでねぇよなコレ!?」 その数分後には、偶然にも現場を通りかかった弟に発見され、適切な処置を施されて大事には至らなかったという。
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