LV11 花と其之他の観察日記

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ぼんやりと明るくなり始める朝5時30分、目覚まし時計も使わずに起床する少女がいた。 この屋敷に住む唯一の使用人であるメイドは、毎日きっかり同じ生活リズムを崩さない。 まだ半覚醒のまま、体をむくりと起こして、ベッドから立ち上がる。そして、布団を綺麗に畳む。 それから部屋を出て、先ず用を足し、それから洗面台で歯を磨き、そして最後に顔を洗う。 ここまでして完璧に目を覚まさせたメイドは、再び自室へ戻ると、花柄のパジャマからいつものメイド服に着替えるのだ。 もちろん、脱いだ服はきちんと畳んでおく。 メイドは化粧はしないが、姿見の前に立ち、軽く手櫛で髪を整える程度には身嗜みも気を遣う。 ここまで全て、メイドの雇い主に言われたことを実行しているだけである。 朝起きたら先ず何をすべきか。髪を整えるのは、不恰好な姿を人前に晒すのは失礼に値するから。 メイドはそれらの教わったこと、その理由、全てをきちんと覚えていて、文句の一つも言わずにそれを実践し続けている。 これまでも、これからも、いつまでも。 もちろん、ここから先に行うことも、雇い主に言われたからこそ実行すること。 髪を整え終えれば、次は一階に下り、昨日の洗濯物が放り込まれた洗濯機のスイッチを押す。 洗濯物が箱の中でぐるぐると回っているうちに、メイド自身は浴室内を掃除する。 特に湯船は念入りに。壁などにカビを見つければ、それが綺麗に落ちるまで擦り続ける。 やがて風呂場がぴかぴかになると、次は朝食の準備に取り掛かる。 メイドがキッチンへ向かう途中、青い髪で右目の隠れた、燕尾服の青年……即ち、メイドの雇い主たる魔王の弟と出くわした。 「おはよう、ござい、ます、クロードさま」 「おう。お前は相変わらず朝早いな」 彼に習った正しい作法で、ぺこりと頭を下げて挨拶をする。 こうして挨拶をすると、弟は満足げに微笑んでくれる。 なんでかはわからないが、メイドにとってはその一瞬が、ちょっぴり嬉しかった。 「メイド、もう風呂の掃除終わらせたのか?」 「はい。いまから、あさごはん、つくる、ところ、です」 「そうか……悪いな、任せちまって。なにぶん昨日もちょっと込み入ってて……いや、何言っても言い訳だな。さっさとメシ作っちまうか」 「はい、クロードさま」 軽く会話を交わして、メイドはキッチンへ入っていく弟の一歩後ろについていくのだった。
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