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そして朝食を作り終え、それを綺麗にテーブルに並べて、いよいよ準備完了だ。
「んじゃメイド、駄女神起こして来てくれ」
「はい、わかり、ました」
この屋敷の同居人、女神のモーニングコールはメイドに一任されている。
ぺこりと一礼し、メイドはキッチンを後にし、女神の部屋へと向かう。この間に、弟は城の主人たる魔王を叩き起こしに出向くため、しばらくダイニングキッチンは留守になる。
「あっ……お、おはよう、メイドちゃん」
メイドが女神の部屋に赴く途中、同じく同居人たる金髪の勇者とばったり会った。
彼は規則正しい生活をしているため、自主的に起きるし、だいたい決まった時間に下に下りてくる。そのため、身嗜みは整えられており、格好もラフな部屋着だ。
「おはよう、ございます、ゆうしゃさま」
メイドはきちんと礼儀正しく挨拶を返す。
メイドと対面した勇者の顔は若干赤く、表情は堅い。
「あ、うん……え、えっと、今日もいいお天気に恵まれてよかったね!」
「はい、そう、ですね」
「ああいや、これじゃ駄目か……あ! そう、そうだ、今日の朝ごはんは何かな!?」
「きょうは、しろいごはん、と、おみそしる、と、たまごやき、と、やきざかな、です。デザートに、まっちゃアイス、も、ごようい、しています」
「そ、そうか! それはとても楽しみだなあ! うん、実に楽しみだ!」
「そう、ですか」
何かと必死に話題を振って、会話を繋げようとする勇者。
だが、メイドはそれをある種、機械的に受け答えするのみだ。そこから、メイド自身、どう思っているのかは感じ取れない。
だがメイドに感情がないわけではないのだ。それをわかっているからこそ、勇者はメイドに笑って欲しかった。
「え、えっと……あとは、なにか……」
もう少し話していたい勇者ではあるが、もともと女性が苦手でほとんど会話のできない性分である。すぐに会話のタネは尽き、言葉を詰まらせてしまう。
その様子を見て、もう自分に用はないのだと判断したメイドは、ぺこりと一礼し、女神へのモーニングコールという、弟から与えられた仕事に戻った。
「ゆうしゃさま、しつれい、します」
「あっ……ご、ごめんね、呼び止めちゃって……はぁ。やっぱり上手くはいかないな……」
メイドにその声は、恐らく届いてはいないだろう。
勇者は自分の情けなさに、がくりと肩を落として、溜め息を吐いた。
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