LV11 花と其之他の観察日記

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そして朝食を作り終え、それを綺麗にテーブルに並べて、いよいよ準備完了だ。 「んじゃメイド、駄女神起こして来てくれ」 「はい、わかり、ました」 この屋敷の同居人、女神のモーニングコールはメイドに一任されている。 ぺこりと一礼し、メイドはキッチンを後にし、女神の部屋へと向かう。この間に、弟は城の主人たる魔王を叩き起こしに出向くため、しばらくダイニングキッチンは留守になる。 「あっ……お、おはよう、メイドちゃん」 メイドが女神の部屋に赴く途中、同じく同居人たる金髪の勇者とばったり会った。 彼は規則正しい生活をしているため、自主的に起きるし、だいたい決まった時間に下に下りてくる。そのため、身嗜みは整えられており、格好もラフな部屋着だ。 「おはよう、ございます、ゆうしゃさま」 メイドはきちんと礼儀正しく挨拶を返す。 メイドと対面した勇者の顔は若干赤く、表情は堅い。 「あ、うん……え、えっと、今日もいいお天気に恵まれてよかったね!」 「はい、そう、ですね」 「ああいや、これじゃ駄目か……あ! そう、そうだ、今日の朝ごはんは何かな!?」 「きょうは、しろいごはん、と、おみそしる、と、たまごやき、と、やきざかな、です。デザートに、まっちゃアイス、も、ごようい、しています」 「そ、そうか! それはとても楽しみだなあ! うん、実に楽しみだ!」 「そう、ですか」 何かと必死に話題を振って、会話を繋げようとする勇者。 だが、メイドはそれをある種、機械的に受け答えするのみだ。そこから、メイド自身、どう思っているのかは感じ取れない。 だがメイドに感情がないわけではないのだ。それをわかっているからこそ、勇者はメイドに笑って欲しかった。 「え、えっと……あとは、なにか……」 もう少し話していたい勇者ではあるが、もともと女性が苦手でほとんど会話のできない性分である。すぐに会話のタネは尽き、言葉を詰まらせてしまう。 その様子を見て、もう自分に用はないのだと判断したメイドは、ぺこりと一礼し、女神へのモーニングコールという、弟から与えられた仕事に戻った。 「ゆうしゃさま、しつれい、します」 「あっ……ご、ごめんね、呼び止めちゃって……はぁ。やっぱり上手くはいかないな……」 メイドにその声は、恐らく届いてはいないだろう。 勇者は自分の情けなさに、がくりと肩を落として、溜め息を吐いた。
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