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一番最初に席に着いていたのは、先ほどメイドがすれ違った勇者だった。
テーブルの席順的には女神の正面であり、女神が座ると勇者は嫌味を込めてキツい言葉を吐く。
「毎度毎度背負われて降りてくるとはいいご身分だな、肥溜女神」
「うっさいわね……だって女神だもん、いいご身分なのよ私は。だから何も問題ないじゃない」
少し不機嫌そうな勇者に、不貞腐れるように答える女神。
ピリッとした空気にはなるものの、事を荒立てるつもりはないのかそれ以上の言葉は交わさない。
単に面倒なだけかもしれない。
と、そこへ弟がやってくる。姉、魔王を引き摺りながら。
「おう、待たせたな」
魔王の右腕を持ち、粗雑に扱う弟は、丸っきり平常運転だった。
ぐったりしている姉、魔王の顔色は悪く、大きなクマが目元にあることから、眠気が強過ぎて抵抗するのを諦めたと推測でき、なすがままに椅子に座らされた。
こうして屋敷の住人が一堂に会し、一斉に食事を開始する。
その間、メイドは席には着かず、一歩引いた場所に立ってそれをじっと見守っている。
その理由としては、飲み物やごはんのおかわりなどに迅速に対応するためなどが挙げられる。もちろん他にもあるが、挙げ続けるとキリがないので割愛。
「小娘、しょうゆ取ってー」
「はい、わかり、ました」
「メイド、悪いがお茶を頼む」
「はい、わかり、ました」
「眠ぃ……ドブ雌、私にメシを食わせろ」
「はい。ねえさま、どうぞ」
ちょっとしたお願いから、食事の補助という介護染みた注文までを素早く、そしてそつなくこなす。
メイドのおかげで、魔王城の食卓は円滑に、そして穏やかなものに保たれていると言っても過言ではない。
そして彼らの食事が終わり、皆が席を離れると、ようやくメイドは自分の食事を摂ることができる。
茶碗には白いごはんが大盛り、その他のおかずも自分の分に加え、彼らの食べ残しの僅かに至るまで、まだ片さずにテーブルに残されている。
「じゃ、俺は洗濯物干してくる。お前はゆっくり、好きなだけ食っててくれ」
「はい、わかり、ました」
最後に残った弟はそう言い残すと、さっさと仕事へ戻っていく。
ちょこんと椅子に座ったメイドは、弟に返事をして、彼の姿が見えなくなるのを待ち……それから手を合わせて、食事を始めるのだ。
「いただき、ます」
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